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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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只野真理のいる日常07

 水月はネット掲示板のブラウザを立ち上げて神乃マリ復活祭というスレを開いた。


 そしてそこに書き込みをしながら時間を潰す。


 真理は三十分ほどでシャワーを浴び終えた。


「シャワーをお借りしました」


「お借りするも何もここは俺とお前の宿舎だ。お前のモノをお前がどう使おうが俺の知るところじゃねえよ」


 パソコンに向かってカタカタとタイピングしながら平坦に水月は言う。


 それから真理へと視線をやり、


「……アホかお前は」


 うんざりと呟くのだった。


 真理は頭にタオルを乗せて髪の水分をとり、体はベビードールを纏っていた。


 いわゆる挑発的な服装だ。


 ネットの舞台ではあるが……アイドルをしている身分であるからその成熟しきった体つきは異性を引き留めてやまない。


「どうです水月……そそりますか?」


「…………」


 水月は一つ嘆息すると、


「――現世に示現せよ――」


 魔力の入力を行ない、


「――木花開耶――」


 続いて魔力の演算を行なう。


 そして出力。


 水月と真理の部屋という狭いスペースに桜の花弁が一枚から二枚、二枚から四枚、四枚から八枚、八枚から六十四枚、六十四枚から三百八十四枚と指数関数的に増えていき……桜の花吹雪が具現化した。


 その密度はあまりに凄まじく……部屋が桜色一色となり三十センチ先も見えないほどだった。


「なんですかこれは……? 桜の花……?」


 桜色の空間の向こうから真理の困惑した声が聞こえてくる。


 そんな真理に向けて、


「俺の魔術だ」


 とだけ説明する水月。


「水月の魔術……木花開耶と言いましたね。あなたのモードは神道なのですか?」


「いんや。うちは徹頭徹尾修験道だ。それはいいからパジャマは着ろ。目に毒だ」


「あは、照れてます?」


「殺されたいらしいな」


「冗談ですよ。それに私……死ねない体質ですよ」


「三秒もらえればオルフィレウスエンジンごと存在そのものを滅却できるぞ?」


「……ごめんなさい」


「わかればいい」


 桜吹雪の中でカタカタとキーボードを叩きながら水月。


「もうちょっと狼狽えてくださっても……」


 そんな不満を述べながら真理はパジャマを着る。


「パジャマ……着終えましたよ?」


「そ」


 とだけ言って水月はパチンと指を鳴らした。


 同時にフツッと桜吹雪が消えて失せた。


 視界は露わになり、空間は日常へと回帰する。


「ふわ……」


 と真理が驚いた。


「花弁が……消えた?」


「残したって掃除が大変なだけだろう」


「それはそうですけど……でも魔術で出来た質量は質量のまま残るって講義で習いましたよ?」


「一般的にはな」


「一般的には……?」


「そ。一般的には」


「つまり水月の魔術……木花開耶はそうではないと……」


「単なる隙間の神効果の延長線上の現象だよ」


「どういうことですか?」


「隙間の神効果くらい知ってるだろ?」


「魔術における術者の能力を超える複雑な演算を《何か》が補完する効果のことですよね?」


「そ」


 頷く水月。


「俺は木花開耶は立つ鳥跡を濁さずのイメージで編み上げているから。厳密に言えば木花開耶によって生み出された花弁は別の質量に触れたら消えるように仕組んである」


「だから花弁は最終的には消えてなくなってしまう……と」


「そ」


「それにしても……桜吹雪を魔術で再現するなんて意外とロマンチックですね……水月は……」


「ほっとけ」


 パソコンのキーボードをカタカタと打ちながら水月はそう言った。


「それで……話を少し巻き戻しましょう」


「あん?」


「水月のモードは修験道なんですよね?」


「日本人なら役行者くらい知ってるだろ」


「修験道の開祖……役小角のことですね」


「そ」


 カタカタとキーボードを打つ水月。


「俺は小角のじじいの直系でな。役一族って言ったらわかるか?」


「知りません」


「ともあれ祖たる小角から脈々と技術を受け継いだ魔術旧家のことだ」


「でもそれがなんで神道に偏っているんです?」


「お前、何も知らないにもほどがあるぞ……」


 嘆息する水月に、


「う……」


 と呻く真理。


「今でこそ修験道は古典魔術に分類されているが、千三百年前の段階では古式神道と仏教と道教の混じり合った新古典魔術だったんだよ」


「千三百年前……!」


「そ。それに修験道には山岳信仰も付与される。富士山は日本最大の霊山だ。木花開耶姫をパワーイメージにするのに何の矛盾もない」


「なるほどです……」


「お前がその程度じゃ先が思いやられるな」


「うー。いつか水月も腰を抜かすほどの魔術を身に付けて驚かせてやるんですから」


「がんばれー」


「ハートが込もってませんですよぅ!」


「込めたつもりもないしな」


 パソコンのディスプレイを見ながらそっけなく水月は言う。


「ところでさっきから水月はパソコンで何をやってるんです?」


「いや、ブログに真理の痴態を晒そうかと」


「止めてください!」


「よし。文面は書き終わった。後はアップするだけだ」


「だから止めてください!」


「これで俺のブログのアクセス数もあーっと言う間にアップするはずだ」


「やーめーてーくださーいー!」


「まぁ冗談はともかく」


「冗談ですよね? 本気で」


「まぁ冗談はともかく、あまり調子に乗って俺を挑発するとマジで人誅を下すぞ」


「からかっただけじゃないですか」


「そう言えば仮に俺がお前を犯すとして、処女膜は再生するのか?」


「再生しますよ。今現在の私で無くなればオルフィレウスエンジンが駆動しますから」


「処女抱き放題だな。フーリーとはお前のことか」


「その例えは不本意ですけど……」


 唇を尖らせる真理だった。

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