スノーマジックファンタジー25
「――原初より至りて此処に顕現せよ――」
「――原初へと戻りて此処に収滅せよ――」
入力。
「――レーヴァテイン――」
「――クリスタルパレス――」
演算。
そして出力。
神話の炎が幻想の城を襲う。
出力そのものは互角だった。
さすが双璧というべきだろう。
炎を出し切った炎術師と、城を維持出来なくなった氷の女王。
「さすがにやるな」
「お互い様でしょう」
皮肉ではあるが事実でもある。
「というより」
とは真理。
「水月はどうしました?」
真理の一番の懸念はソコだろう。
水月が囮になってクリスタルたちを逃がした。
その上で炎術師が追いついてきたのだから不安に駆られるのもしょうがない。
「役先生なら今頃俺の幻影と遊んでるさ」
「まぁ見事な魔術ではあったな」
最後の声は炎術師の背後。
追いついた水月が炎術師の背中にヤクザキックを放った。
「へぶっ!」
うつぶせに倒れる炎術師。
「もう追いついたのか!」
「生憎だったな」
水月はさも平然とソコに居る。
「熱干渉による蜃気楼の原理。ソによって為るホログラム。なるほど攻撃一辺倒だとばかり思っていたが意外と技巧派だなお前」
「バレた?」
「見事な魔術だった。そこに否やは無い」
心からの賛辞である。
「役先生が褒めるなら俺も捨てた物じゃないな」
「で、どうする? 次はないぞ?」
水月側は水月と真理と氷の女王とクリスタル。
対するは炎術師一人。
どう考えても後者が割に合わない。
吹雪に対してパウダーフィールドも張ってはいるが多勢に無勢も突き抜けている。
「ふむ」
少し思案した。
「じゃ……」
と炎術師。
「カレイド先生」
「何でしょう」
「俺と決闘しろ!」
ビシッと指差す。
「?」
首を傾げる氷の女王。
「何ゆえ?」
と。
「こっちの有利を破却する意味が分からない」
自然の理だ。
「とりあえず俺が勝ったらクリスタルを殺させろ。俺が負けたらこの件に関して一切から手を引く。どうだ?」
「どう思います?」
氷の女王は水月に意見を求めた。
「まぁ殺そうと思えば何時でも殺せるしな」
水月の言葉ははったりや脅しでは無く客観的事実。
ただ一言、
「後鬼霊水」
と魔法の呪文を唱えるだけであら不思議。
炎術師の命が鎮火する。
危ういバランスにいるのは何もクリスタルばかりではないと云うことだ。
閑話休題。
「とりあえずこのメンツを俺一人でどうのは出来ないしな!」
いっそ開き直るしかなくなったらしい。
水月とて心情は察せる。
水月と真理はコンスタン研究室生。
氷の女王アイス=カレイドは炎術師フレイム=クーパーと双璧。
なお猛吹雪を再現するアークティア。
一人でどうにか出来ると思う方が頭を違えているだろう。
そう云う意味ではクリスタルを賭けて決闘というのは存外理に沿っている。
「条件があります」
氷の女王は一歩引いて見せた。
「何だ?」
「そちらの勝利が即ちクリスタルちゃんの死で、こちらの勝利がクーパー先生の掣肘では釣り合いが取れません」
「俺に死ねってか?」
「さすがにそれは……わたくしたちは貴重な現代魔術師です故」
「だぁな」
その辺の認識は共有している。
魔術師はそれだけでカレッジの財産である。
水月は概ねの状況を察して黙った。
「ですからこちらの勝利……勝つことによる利は炎術師クーパー先生のクリスタルちゃん護衛に命を賭ける。これならば応じる用意もあります」
「要するに味方になれと」
「はい」
「オーケ……。ソレでいこう」
炎術師としてもその程度ならば呑めるのだろう。
命は賭けないが、状況を賭ける。
「じゃあ行くぞ」
「ええ」
両者の武威が膨れあがった。
真理がちょこちょこと水月に歩み寄る。
「いいんですか?」
「当人同士が納得してるから良いんじゃないか?」
「むぅ」
と唸ったのは真理では無くクリスタルだった。




