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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
冬のある日の唄
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スノーマジックファンタジー24


 スッと吹雪が消えた。


 おそらくクリスタル(および真理と氷の女王)が結界内に反転したのだろう。


 基準世界と準拠世界。


 どちらで吹雪くかで居場所が察知出来る。


 その上、炎術師にはバックアップがいる。


「少し痛めつけるか」


 嘆息してそんなことを思う。


「――原初より至りて此処に顕現せよ――」


 炎術師の方は、やる気満々だった。


「――アイム――」


 火の一現。


 火や炎のシンボリック魔術を基盤として、パワーイメージを節操なく取り込む現代魔術。


 現れたのは松明で全てを焼き尽くす大悪魔。


 ソロモン七十二柱が一柱。


 火炎が振るわれる。


 灼熱のソレだ。


「――後鬼霊水――」


 水月は多量の水を出現させて対抗する。


 火は水で消える。


 至極当たり前だが、それ故水月は炎術師に対して優位に立てる。


 炎をかき消してアイムを無力化すると、


「――前鬼戦斧――」


 斬撃を発生させた。


 首をはねられてアイムが消え失せる。


「一応事後処理も術式に含んではいるのか」


 素直に感心する水月。


 皮肉では無いが結果として皮肉になったらしい。


「――原初より至りて此処に顕現せよ――」


 入力。


「――カグツチフレイム――」


 国生みのイザナミを殺した神殺しの火神。


 そのイメージが現実となって水月を襲う。


「――千引之岩――」


 水月は魔術障壁を展開する。


 ただし防御では無い。


 足場の構築だ。


 トトンと障壁を蹴って夜空を背負い下を見やる。


 炎が襲ってきた。


 もっとも足場とはいえ千引之岩。


 炎の遮断程度はサクリとやってのけるが。


 パウダーフィールド。


 炎の海は裏街のそこかしこを燃やして被害を広げている。


 猛吹雪……結界たるスノーグラウンドが無くなった以上、パウダーフィールドは無制限に周囲を焼き尽くす。


「無茶苦茶やるな」


 水月が言えたことでもないが。


 次に現れたのは炎で出来たドラゴンだった。


 さすがに欧人らしい。


 力の象徴であるドラゴンを炎で象るのは一種シンボリック魔術の究極だろう。


「――――!」


 ドラゴンが炎を吐いた。


「まぁそうなるよなぁ……」


 特に何がどうこうと言うわけでもないが、


「ジーザスクライスト」


 信じてもいない聖人に向けて十字を切る水月であった。


 本人は安穏としているが、そのじつ周囲は大火が大火を呼んで地獄絵図と化している。


 熟々水月の知ったことではないが。


 水月は情報端末を操作してクリスタルの動向を探る。


 別段足下の魔術障壁を突破出来る人間は敵対していないため、基本的に安全圏だ。


 未だ業火のドラゴンブレスが千引之岩に挑んでいるが、一寸とて害されない。


 奈落の神さえ封じる障壁だ。


 当然ではあるが自然現象の再現程度でどうにかなるものでもない。


「さて、動くか」


 水月は夜空に足場を二つ作り、その二つの足場の中間地点に空白を作った。


 そして今いる足場から新しい足場へと跳ぶ。


 ムーンサルトで。


 一回転半ひねり。


 跳躍と同時に、


「――後鬼霊水。秋霖――」


 複数のウォーターカッターを生み出す。


 それはドラゴンをズタズタに切り裂く。


 燃焼とは酸化反応で水は酸化反応の結果だ。


 要するに水素における燃え滓が水なのである。


 既に燃え尽きている物を燃やすことは出来ない。


 これが自然現象……少なくともニュートン力学の範囲内では当然だ。


 ついでに後鬼霊水の一部を炎術師にも向ける。


 太ももを水の刃で刺し貫いた。


 殺すつもりは無い。


 ただ行動不能にすることに於いては脚を狙うが肝要なだけだ。


 が、


「おや?」


 ウォーターカッターは炎術師の太ももを貫いたが、血も出ず痛覚も発生せず……、


「貫いた」


 というより、


「通り過ぎた」


 が適切だ。


 そして次の瞬間、炎術師のホログラムは形を維持出来ず霧散して果てる。


 とりあえずドラゴンの遺体が現象として限界を迎えたことを確認した後、


「いっぱい食わされたな」


 水月は自嘲した。


「中々器用な真似が出来るじゃないか」


 とりあえず出し抜かれたことへの賛辞を此処にいない炎術師に送って、水月もまたクリスタルの下へと向かう。


 世界の反転。


 猛吹雪の支配する領域だ。


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