スノーマジックファンタジー17
ラーラと忍には、
「来るな」
と忠告してあるし、
「真理は死なないしな」
と価値を置いていない。
少なくとも、
「とある準備」
において、
「ラーラを失うわけにはいかない」
のが水月の事情だ。
コロシアムが氷の世界になる。
痛痒していない人間もチラホラいるが、概ねは氷の彫像と成り果てている。
「――迦楼羅焔。迦楼羅焔。迦楼羅焔――」
炎弾を三つ放つ。
着弾。
同時に爆発。
がクリスタルパレスは微塵も揺らがない。
「これは中々……」
苦笑する水月。
思考のリミッターこそ外していない物の、別段手加減という努力を嫌う人間だ。
殺す気は無いが、
「四肢の一、二本は」
と思っていたのだ。
「当てが外れたな」
認識せざるを得ない。
「――原初へと戻りて此処に収滅せよ――」
魔力の入力。
「――アイスゴーレム――」
魔力の演算。
そして出力。
巨人が生まれた。
氷を材質とした。
「――――!」
人では無い声で吠える氷の巨人。
アイスゴーレム。
一種の使い魔ではあるが、それだけでは説明不足。
そもそも氷とは水が氷点下で結晶となった産物だ。
当然氷を使った脳や神経や筋肉を形成出来るわけも無く、その殆どの演算はアークに依るモノだろう。
隙間の神効果。
および梵我誤差。
現代魔術ではそう呼ぶ。
ともあれ巨人は水月の目算で五メートルを超える。
巨人の名にふさわしい巨体だ。
呻いて蠢いて、水月に氷で出来た拳を振り下ろす。
「――千引之岩――」
水月は魔術障壁を張って身を守る。
どの様な膂力も空間隔絶の前には有象無象だ。
「さて……」
水月は脳をスイッチする。
「――後鬼霊水――」
水を生みだして巨人の足下を濡らす。
その瞬間、氷の特性が生まれる。
濡れた氷は水を皮膜として摩擦が極端にすり減る。
要するに滑るのだ。
足元おぼつかず倒れるゴーレム。
さらに、
「――後鬼霊水――」
と水を撒く。
触れた物を凍らせる……アイスゴーレムは倒れた巨体と地面とを後鬼霊水の水分で接着させて行動不能となる。
「魔術も使いようですね」
氷の女王は、
「さも感嘆」
と吐息をついた。
「――原初へと戻りて此処に収滅せよ――」
さらに入力。
「――アイスフロッグ――」
干渉発生魔術。
一定以上の魔術師の証明。
直訳するところの、
「氷の剣山」
だ。
そしてその通りに機能するが、
「…………」
水月は何も反応しなかった。
地面から剣山のように氷の針が無数に飛び出したが、そもそも水月は千引之岩を足場にしている。
地面からの発生魔術が効く余地もない。
ルンと軽やかに笑う水月だった。
とりあえず直接的な攻撃は通用しないらしいと(今更だが)氷の女王は悟る。
「――原初へと戻りて此処に収滅せよ――」
入力。
「――コールドフィールド――」
演算。
冷気が水月を襲う。
ま、こんなところか。
寒いのは我慢出来ない。
無論ではあるが、ここで金色夜叉を使うのも上手くない。
「契約の履行はしないが」
水月は両手を挙げた。
ハンズアップ。
「俺の負けだ」
と。
見ていた観客は殆どが凍り付いていたが、それでもなお凍り付いていない剛の者は水月の敗北宣言に瞠目していた。
さもあろうが水月の知ったことではない。
「やれやれ」
とりあえず事態を収拾することに手間が掛かるのも一種の必然だろう。




