只野真理のいる日常06
その日のラーラとのデートを終えて、モノレールの駅でラーラと別れると、水月と真理は宿舎に帰った。
「ただいま~」
「ただいまです」
水月とラーラは我が家へとあがる。
それから水月は玄関兼キッチンを通り過ぎて部屋に入ると、
「あ~、疲れた」
ベッドにダイブした。
「お茶でも入れましょうか?」
そう提案する真理に、
「あ~、お願い。冷蔵庫に水出し紅茶があるからそれでお願い」
ベッドにダイブしたままヒラヒラと手を振る水月。
「はいな」
真理は頷いてキッチンへと向かう。
「ええと、アイスティーは……」
と呟きながらラーラは水出し紅茶を冷蔵庫から取り出す。
それからティーカップを二人分用意して茶を注ぐ。
「出来ました、水月……」
「ん。感謝」
もぞもぞとベッドから這い出てきて部屋の中央に置いてあるコタツ机に接する水月。
そして、一口紅茶を飲み、
「真理……」
と呼ぶ。
「何でしょう?」
「ガムシロップがキッチンの棚にあるから持ってきて。三つ」
「はいな」
従順に頷く真理だった。
キッチンに行ってガムシロップを持って水月に差し出す。
「ん。ありがと」
水月はガムシロップを三つ水出し紅茶に混ぜてどこまでも甘くなった紅茶を飲む。
「はふ。元気回復」
そんな皮肉に、
「お疲れ様でした」
と生真面目に返す真理。
「それにしてもやはり私はお邪魔ではなかったでしょうか?」
「ラーラはそんなこと気にしないって。俺も気にしねえしな」
「しかし……」
「…………」
無言で紅茶を飲む水月。
「しかし……気付いていますか?」
「何に?」
「ラーラはきっと水月のことが好きですよ?」
「知ってる」
あっさりと頷く水月だった。
「ていうか告白されたしな。二度も」
「そう……なんですか……?」
「ああ。そしてふった」
やはりどこまでもあっさりと水月だった。
「そんな。ラーラはそれでも水月と仲良くしているんですか?」
「そういうことだな」
「残酷ですよ」
「知ってる」
「ラーラみたいな可愛い子でも水月には駄目なんですか?」
「まぁ……そういうことだな」
「ラーラ……傷ついてないんでしょうか……」
「傷ついてるに決まってるだろ」
「何もしないんですか?」
「何をしろと? 断ったの冗談で照れ隠しだ……とでもフォローすればいいのか? それとも愛の言葉でも囁けと?」
「それは……」
「無意味だろ?」
「…………」
水月は中央のコタツ机に置かれたノートパソコンを立ち上げる。
ちなみに水月と真理のパソコンは向かい合うように部屋中央のコタツ机に置かれている。
そして真理は既にノートパソコンを起動させていた。
「なんでラーラじゃ駄目なんですか?」
「なんでって言われてもな……。俺は黒髪ロングの大和撫子が好きなんだよ」
「あう……」
と狼狽えて髪を纏めているリボンを弄る真理。
「それより真理」
「何ですか?」
「ブログ更新しないの?」
「今からしますよ」
真理はデジカメを取り出すと、自分にシャッターを向けて切った。
何枚も。
「そんなに自分を撮ってどうするつもりだ?」
そう問う水月に、
「もちろんこの中から一番綺麗に撮れている一枚を選定するんです」
「なるほど……」
納得する水月。
真理はデジカメのデータをパソコンで吸出し写真屋で少しだけ加工すると、それを今日の雑事の駄文と共にブログに乗せた。
「死ぬ死ぬ詐欺乙……と」
真っ先にブログコメントにそう書きこむ水月。
「また水月は……そうやって何が楽しいんです」
「炎上できればなぁって」
「させないでください……」
「まぁ冗談はともかく……」
「本当に冗談なんですか?」
「まぁ冗談はともかく……」
「…………」
「真理、お前さ……」
「何でしょう?」
「この式紙にサインを書かないか?」
「サイン……ですか?」
「そ。サイン」
「何故」
「サインをオークションで転売しようかなと思って」
「断固としてお断りします」
「そうかぁ。いい値がつくと思ったのになぁ」
「水月は私を何だと思ってるんですか」
「ネットアイドルだろ?」
「ファンなんですよね?」
「にわかだがな」
「……はぁ」
嘆息する真理。
「じゃ、やりたいこともやったし……俺は先にシャワー浴びてくるよ」
「お湯、張ってませんよ?」
「いいんじゃないか? 別に気にしない」
「そう仰るなら構いませんが……」
「じゃ、そういうことで」
水月はティーカップを持って立ち上がる。
そしてキッチンの流し場にカップを置いて、シャワーを浴びてさっぱりすると部屋へと戻る。
もちろんパジャマを着て、だ。
ガシガシとタオルで髪を拭きながら、
「あ~、さっぱりした。真理もシャワー浴びてこいよ」
「そうします」
ブログの更新も終わってネットサーフィンをしていた真理が頷く。
真理が浴室に入ってシャワーを浴びる音を聞きながら水月は、
(一つ屋根の下ってのも不便なものだな)
そう思う。
とかく只野真理は美しい。
茶髪のショートカットにリボンをあしらって。
ブラックパールをはめ込んだような黒い瞳は深淵が見えず。
桃色の唇は性的興奮をそそる。
水月でさえドキッとするのだ。
葛城さくらという存在が無ければ、まともな思慮を持つのなら、惚れて当然の美少女である。
「ま、まだ関係ないんだがな……」
そう呟く水月だった。
 




