スノーマジックファンタジー08
「畏れ入らないのですね」
凜とした声が、響いた。
女性の声だ。
声のした方を見やる。
吹雪の中から、白い人型が現れた。
ほとんど距離的に、プレッシャーを感じるほど近くだが、そうでもしないと、声の主の全容を、見ては取れないだろう。
白い髪。
白い瞳。
白い肌に白いワンピース。
どう考えても、猛吹雪に対処する出で立ちでは無いが、水月でなくとも察したろう。
要するに、
「結界の主だ」
とまで。
「アークティアか」
今更だが。
まるで、
「雪を材料の女性を造りました」
と、言わんばかりの外見である。
「その金色のオーラは何です?」
「スーパーヤサイ人」
「?」
アークティアには通じないらしかった。
当然と言えば、その通り。
が、特に吹雪に参っていないのは、理解出来るのだろう。
「便利な魔術ですね」
「まぁな」
まっこと畏れ入らない水月である。
「で」
水月は問う。
「お前は何なんだ一体?」
「妖精です」
「妖精ね……」
妖精。
主に、欧州で信仰されている、アークティアだ。
人に恩恵を与えたり悪戯したり。
犬や猫の妖精と云った、愛らしい逸話もある。
愛らしさで言えば、目の前のアークティアも十分可憐ではあるが、問題はその周囲だ。
荒れ狂う猛吹雪。
そして妖精を自称する女性。
「要するに雪の妖精で良いのか?」
「ですね」
雪の妖精も、肯定する。
「何故俺らを取り込んだ?」
結界内に、だ。
「単なる悪戯です」
「妖精の面目躍如か」
「ですね」
くっくと妖精は笑った。
「チェンジリングされてもなぁ」
水月は、
「さも深刻です」
と腕を組む。
もっとも、金色夜叉が、全て裏切っているが。
「遊びませんか?」
「この吹雪の中でか?」
「雪は嫌いですか?」
「好きな方だぞ?」
「では問題ありませんね」
ニコニコと、妖精は笑う。
「何して遊びます?」
「追いかけっこで良いだろ」
「この吹雪の中で?」
「鬼は俺な」
「譲ってくださると?」
「オンマユラキランデイソワカ」
水月は、思考のリミッターを外した。
「――迦楼羅焔――」
宿舎への帰宅途中の街路。
その路を挟んでいるビルの一角に、迦楼羅焔を放つ。
灼熱が、具現した。
不浄を焼き滅ぼす不動明王の背負うソレが、水月の差し出した腕から、解き放たれる。
ビルの一つが爆砕する。
破片となって、ビルが完全粉砕されたのだ。
「…………」
ことここにおいて。
雪の妖精は、自身の襲った人間の如何を、察してのける。
つまり、
「殺される」
と、正しい未来予想図を、思考地図に描いたのだった。
「さて」
水月は言う。
「十秒の猶予をやろう」
酷薄の微笑でもって。
「出来る限り遠くに逃げろ。さもないと焼き滅ぼされるぞ?」
当然、
「雪の妖精だ」
と云った以上、妖精の体は雪で出来ている。
雪とは、小さな氷の結晶だ。
こと熱に於いては、致命的な弱点となる。
もっとも思考リミッターを外した水月の迦楼羅焔は、雪の妖精でなくとも、脅威であることに相違はないのだが。
「ふわぁ」
と、真理が感嘆する。
妖精は戦慄した。
人間であれば、冷や汗をかいていただろう。
「うにゃー!」
妖精は、全力で逃げ出した。
無論ではあるが、無精の水月は追いかけたりしない。
「とりあえず結界を出るぞ真理」
「はいは~い」
御機嫌に酔っている真理も、大物と言えるかもしれなかった。




