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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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只野真理のいる日常05

「魔術を使えるのが当然だと思って育つのだから魔術を扱うことを神聖視したりしない。結果としてブリアレーオの法則に引っかからない」


「なるほど……」


「つまり魔術師の子供として生まれるってことは天性の才能と完璧な環境が用意されているってわけだ。現代魔術に対して古典魔術が優位にいる理由……わかったか?」


「それはもう……」


 ゴクリと唾を呑み込んで真理。


「ずるいですよね~。先天的にも後天的にも最高の環境が用意されているんですから。これで魔術を覚えなかったら嘘ってもんですよ」


 ラーラがそう不満を述べてサイコロステーキを咀嚼する。


「まぁ魔術師の観点から言えば魔術を使えてだから何って感じだけどな」


「持っている人より持ってない人の方が価値を知っているものです」


「ラーラは魔術を使えるんですか?」


 そんな真理の言に、


「私?」


 とラーラは自分を指差して首をひねる。


「私は今のところ一つだけ……」


「どんな魔術です?」


 問う真理に


「ファイヤーボール」


 とラーラ。


 そして、


「要するにシンボリック魔術だな……」


 と水月が皮肉った。


「いいじゃないですか。シンボリック魔術でも魔術なんですから」


「ケチつけたつもりはねえよ。からかっただけだ。それに精度も十分だしな」


「そうですか? えへへぇ、先輩に言われると照れますね」


 まんざらでもなさそうに笑うラーラ。


 真理がこっくりと首を傾げた。


「シンボリック魔術って何です?」


「…………」


「…………」


 水月とラーラは沈黙して、パチクリとまばたき。


 その後、


「魔術実践論……受けてないのか?」


 そんな疑問を水月が口にした。


「はい。魔力の入力も魔力の演算もできない身としては受ける理由がありませんから」


「魔力の入力は既にやってるだろ。オルフィレウスエンジンが」


「便利よね~。オルフィレウスエンジン……」


「脳とは別個に動いてますから魔力の入力をしているなんて実感はないですど……」


 閑話休題。


「とまれ、シンボリック魔術ってのはその名の通り象徴的な魔術のことだ」


「象徴的……」


「そ。魔術らしい魔術だと思えばいい」


「魔術らしい魔術ですか……。余計わかりにくいですけど……」


「五行である木火土金水とか……エレメントの火水土風とか……後は光とか闇とか剣とか……そういうシンボルとしての現象を再現する魔術のことだな」


「?」


「火を自在に操る魔術師ってなんか魔術師らしいって思わんか?」


「思いますね」


「そういう偏見的なイメージの属性を持つ魔術ってのはシンボリック魔術と呼ばれていて、素人が魔術を覚える際にはこれを指標とすることがよくあるんだ」


「なるほどです……」


「特にファイヤーボールなんて典型的なシンボリック魔術だ。イクスカレッジでもこれを使える魔術師は多いな」


「物騒な話ですね……」


「どっちにしろ魔術師じゃなきゃコンスタン教授は受け入れやしねえぜ。お前も魔力の演算を覚えてもらうことになる」


「でも私……トランス状態になりにくいんですよね……」


 気弱な真理。


「そこはトランスセットと薬効で慣れるしかないな。ソーマは呑んでいるんだろ?」


「ええ、まぁ、一様……」


「それなら問題ないぜ。事実……ラーラでさえソーマを飲まなきゃ魔術使えない半人前だからな」


 くつくつと笑う水月。


「ソーマ無しでトランス状態になれる先輩が異常なんですっ」


 憤慨するラーラ。


「まぁ異常なのはラーラの言葉通り。じゃなきゃ魔術師なんてやってられねえぜ。魔術師は全員精神疾患だからな」


「……凄まじい世界ですね」


「アンデッドが何を今更」


「あう」


 水月の言葉に声を失う真理。


「とまれ、魔術を覚えたいならソーマを呑んで脳をぶっ壊すことだな。他に道はないぜ。それに真理ならソーマの害も問題にならんだろ?」


「それは……そうですけど……」


「なら問題ない。後は魔力の演算のコツはラーラにでも教えてもらえ」


「先輩が直接指導すればいいじゃないですか」


「俺はお前ら一般人と違って一流の魔術師だ。参考にならん」


「自惚れですか?」


「単なる事実だ。一流の魔術師ということは同時に重度の精神疾患の患者だ。そんな奴に何を学べと?」


「それはそうですけど……」


 お冷を飲みながらしぶしぶ頷くラーラ。


「ではラーラ、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


「うん。私もファイヤーボールしか使えないけど魔力の演算のコツとか教えてあげる。って言ってもトランス状態になって強いパワーイメージを持てばいいだけだから教えてあげることも少ないけど……」


 真理は向日葵のような笑顔を見せて、


「ありがとうございます!」


 と感謝を述べた。


「でもあんまり期待しないでね。私も半端ものだから」


「そんな。ラーラは魔術を使える立派な魔術師です。尊敬に値します」


「そうかな?」


「そうです」


「照れちゃうな」


「誇っていいことだと思います」


「ですって先輩。私、認められましたよ?」


「魔術を行使するのが魔術師ならオルフィレウスエンジンを持ってる真理だって魔術師だろ……」


 食後のコーヒーを飲みながら水月。


「それはそうですけどっ。少しくらい認めてくれても……」


 うー、と唸るラーラ。


「脳をぶっ壊してまで魔術が欲しいかねぇ……」


 はふ、と吐息をついて、うんざりと水月はそう皮肉るのだった。

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