スノーマジックファンタジー05
そんなわけでカモ蕎麦である。
夕暮れの時刻。
夕飯のメニュー。
「いただきますっ」
興奮して、水月は口をつけた。
蕎麦の香り。
麺の噛み応え。
ダシとネギの香り。
柚胡椒の辛み。
なるほど。
逸品であった。
「どうでしょう?」
真理が問う。
「美味い」
「さすが」
「やるな」
絶賛だった。
鴨の肉も、噛めば噛むほど味が出る。
総じて素晴らしかった。
「ならよかったです」
ほ、と吐息をつく真理。
ほとんど宿舎のお母さん係だが、当人が好きでやっているため、止める気も無い水月たち。
ちなみに西洋の食事については、ラーラが一歩先んじる。
もっとも水月と真理と忍が日本人であるため、あまり猛威も振るえないが。
とりわけ日本食を水月と忍が好むため、ラーラは料理に於いては、魔術とは別の次元で勉学の徒と為る。
師匠は真理。
「水月に美味しい御飯を食べさせる」
という点で、ラーラと真理の意思は重なる。
恋する乙女は、その辺に於いて妥協をしない。
水月は知ったこっちゃなくカモ蕎麦を食べるが。
チュルチュルと蕎麦をすすって咀嚼。
後に嚥下。
ダシを飲めば薫り高く。
鴨肉はジワッと脂の乗った特有の味を再現する。
コタツと相まって水月における、
「暖まる」
の感想だ。
そんなこんなで鴨肉をハムハム噛んで味わっていると、
「兄貴」
と忍。
「ん~?」
水月は鴨肉を嚥下。
「結界についてはどう思う?」
「どこぞの魔術師の陰謀だろ」
そう決めつけたものではないだろうが、一つの真理ではある。
「ん~……」
と忍が唸る。
「何なら様子でも見てくれば良いんじゃないか?」
焚き付ける……とはまた違う。
素で言っているだけである。
「でも寒いしなぁ」
「然りだ」
心から。
心底から、水月は同意した。
寒いのだ。
吹雪は。
そして此度の結界のルールが吹雪である以上、何かしらの対策を取らなければ凍死すること言うまでもない。
水月や忍ならともあれ、ラーラや真理は取り込まれたらどうしようもないだろう。
然れど水月は心配していない。
これは、あくまで楽観論の産物。
ラーラは、大気を固定することで吹雪を防げる。
真理は、そもそも吹雪程度で死にはしない。
此度の結界の意図が那辺にあろうと、
「生きてりゃ丸儲け」
は、この際、現実味を帯びる。
カモ蕎麦ズビビ。
「被害者が出なけりゃ良いんだが……」
「無茶言うな」
フォローする気も無いらしい。
それが水月の言だった。
何が根幹かは見えないが、雪女の伝説然り、渡り烏の異説然り、冬と雪と氷と風は纏めて人も惑わす自然の威力だ。
結果として、
「人を吹雪に迷わす」
ことは結界における自然の理だ。
故に、
「考えるだけ無駄だ」
と水月は言ったのだが。
人を襲う類の魔法は、多種多様にある。
「今回はその一つだろうな~」
食後に、ケフッと吐息をついて水月。
水月にしてみれば、一律無害でもあるのだが。
「兄貴は動かないのか?」
「やって出来んでは無いが……超過勤務に勤しむ理由もあるまいよ」
「……………………」
蕎麦湯を飲みながら、半眼で睨む忍。
水月もまた蕎麦湯を飲みながら知らないフリをする。
「どっちにしろ」
とは水月の予言。
――巻き込まれるなら盛大に……だからな。
言葉にはしなかった。
考えるだけで鬱屈物だ。
だいたい、ここまでお膳立てされて、水月が巻き込まれないなら、
「そちらの方が嘘だろう」
と諦観を覚える。
それが絶望に転換しないのは、偏に水月の能力による物だった。
南無八幡大菩薩。




