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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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只野真理のいる日常04

 結論から言って映画はB級だった。


 イクスカレッジを舞台にといったコンセプトはどこへやら……アメリカの摩天楼でヒーロースーツを着た主人公が魔術という名の超能力と持ち前の筋肉を使って悪の組織をこらしめる勧善懲悪ものだった。


 水月はスクリーンを指差して大爆笑。


 それはそうだろう。


 乗りはアメリカ人好みのアメコミアクションだ。


 どこにもイクスカレッジに関係する要素もなければ魔術の理論も出てこない。


 それがイクスカレッジだとするなら、正気の沙汰とは思えない出来だったのだから。


 元々イクスカレッジは魔法学校の学園都市として国連に属しているから正気の沙汰ではないが、それにしても此度の映画はそれすらも上回っていると言えた。


 水月とラーラと真理は映画を終えて、夕食を取るべく繁華街のレストランに入った。


「いやぁ面白かった。あの原作レイプっぷりは笑えた」


 ハンバーグを食べながら水月。


「先輩、笑いすぎでしたよ……。客が少なかったから良かったようなもので……もし満員だったら追放されてましたよ……」


 サイコロステーキを食べながらラーラ。


「世間ではイクスカレッジってあんな風に見えているものなんですね……」


 しんみりとした様子でチーズハンバーグを嚥下しながら真理。


 そこに水月が首を横に振りながら、


「まさかまさか。イクスカレッジをさっきの映画みたいに捉えているのは少数派だ」


 そう言った。


「あ、それはそうですよね。まさかあんな荒唐無稽なもの信じるはずがありませんよね」


「それも違う」


「違うんですか?」


「違う」


 こっくりと水月は頷く。


「講義で習わなかったか? 魔法検閲官仮説って」


「たしか『魔法に関わる認識は人類に浸透しない』っていう仮説でしたっけ?」


「そ。何者かが魔法という知識を意図的に隠しているように働く作用から魔法検閲官仮説と呼ばれている」


「でも実際ハリウッドになってイクスカレッジって単語が出てましたよ? 映画を見た人は魔法の存在を……」


「信じやしないさ」


「そんなものですか?」


「そんなものです」


 ハンバーグを咀嚼、嚥下。


「そもそも人類の九十九・九九パーセントはイクスカレッジなる存在を認識していない」


「え? でも国連に認定された公式な学園都市ですよ? 九十九・九九パーセントは言い過ぎじゃないかと……」


「事実よ……真理」


 ラーラも水月に同意した。


「でも……そしたらイクスカレッジって何なんですか?」


「公式の秘密魔術結社……ってところだな」


「公式なのに秘密なんですか?」


「しょうがないんだ。魔法検閲官仮説がある限り人類に魔術は浸透しない」


「それはまぁ……わからないでもないですけど……」


「よって人類のほぼ実数はイクスカレッジなるモノを知らない。耳にしても気に留めない」


「はあ……」


 ぼんやりと言ってお冷を飲む真理。


 そして言う。


「残りの零・零一パーセントがイクスカレッジを認識している……と」


 そんな真理の言に、


「それも厳密には違う」


 水月はまた否定する。


「違うんですか?」


「違う」


「じゃあ残りの零・零一パーセントは何なんですか?」


「残り零・零一パーセント中の零・零零五パーセントはさっきのアメコミ映画みたいにうさんくさい超能力研究機関だと思っている」


「じゃあ本質的に魔術の存在を認識しているのって……!」


「そ。零・零零五パーセントに過ぎない」


「こんな大々的にイクスカレッジを創ってもたったの零・零零五パーセントしか魔術を認識できないんですか……」


「魔法検閲官仮説のすごさがわかるだろ?」


「はい……」


 真理は頷いてチーズハンバーグを咀嚼、嚥下する。


「さらに実際に魔術を使える人間ともなれば更にパーセンテージが落ちるのよ」


 と、これはラーラ。


「これだけたくさんのイクスカレッジ生がいて自在に魔術を使えるのは五十人に満ちませんですからね……」


 そんな真理の感嘆に、


「然り然り」


 頷く水月。


「ちなみに水月はいくつ魔術を使えるんですか?」


「五つ以上」


「やっぱり才能の違いがあるんでしょうか……」


「ま、一つにはな」


 水月は否定しない。


 ラーラが言葉を続ける。


「そもそも私達一般人と魔術旧家の先輩とでは次元が違うから」


「そうなんですか?」


「間違っちゃいねえな。いわゆる魔術旧家の魔術師の脳の形相は一般人よりトランス状態に陥りやすくなっているんだ」


「でもそれってまずいのでは……」


「まずいよ……。かなりヤバい……。要するに生まれつき精神疾患を患っているようなものだからな……」


「…………」


「定向進化ともDNAの違いとも言われているが……ともあれ古典魔術師の家系は脳に異常を抱えた血筋なんだ」


「であるから魔術の習得が容易なんですね……」


「一つにはな」


「他にも要因が?」


「ああ」


 簡潔に答えてハンバーグを咀嚼、嚥下する水月。


「もう一つ、魔術師の子は親の背中ならぬ親の魔術を見て育つからな」


「それが何か?」


「わからんか? 幼いころから魔術を当然だと思って育っているんだぞ?」


「……?」


 くねりと首を傾げる真理。


 そこにラーラが助け船を出した。


「良く考えて真理。私達は魔術なんて荒唐無稽と思ってしまうけど、先輩達魔術師の家系は幼いころから魔術を使えるのは当然と認識しているのよ?」


「あ……ブリアレーオの法則……!」


「グッド」


 ニヤリと水月は笑う。

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