炎と檻のカーニバル04
「はあ。あったまる……」
冬のワンデイ。
何時ものように、甘味処ロマンスで、水月たちは駄弁っていた。
「外は寒い」
ということで、冬は屋内でのティータイム。
水月は、ホットチョコレートを飲んで、暖まっていた。
苺のタルトをサクサク。
時間は、放課後。
もはや通例となった……かしまし娘とのソレである。
「今日の夕餉は何にしましょう?」
「あったまる奴」
「ふむ……」
真理が思案。
「雑炊!」
忍が、挙手した。
「ああ、いいな」
水月も便乗。
「ではその通りに」
真理が言い、
「私も」
とラーラ。
そこに、
「役先生!」
そんな言葉が、飛んできた。
グサッ、と水月に刺さる。
「先輩?」
「水月?」
「兄貴?」
一応、理解はしているらしい。
チョコレートを飲む。
そして声の主を見る。
少年だった。
顔立ちは整っているが、水月が言えば、皮肉になるだろう。
それでも美少年と云ってよかった。
赤い髪と赤い瞳。
炎を連想させる髪と、ルビーを連想させる瞳。
染めてカラコンをしているのか。
赤色をパーソナリティにしているらしいことは、窺えた。
来ているコートは灰色だが、そこから変身ヒーローの如く、赤いマフラーを巻いている。
ただ、率直なところを云えば、水月は関わりたくなかった。
自身を、
「役先生」
と呼ぶ人間に、良好な関係を築けた例は少ない。
スルーが吉かとも思え、一人ならそうするのだろうが、かしまし娘が把握している時点で、聞こえなかったフリも出来ない。
チョコを飲みながら、半眼で、赤い少年を見やる。
「何だ?」
「俺と決闘しろ!」
ビシッ、と指差して、宣言する。
「だろうな」
とは水月は言わなかった。
基本的に、水月に対して近づいてくる輩は、魔術の教えを請いに来るか、あるいは魔術戦闘を水月にふっかけてくるか。
どちらかである。
今回は後者らしい。
つまり、大なり小なり、魔術師なのだろう。
「もしかしてクーパー先生ですか?」
ラーラが、そう云った。
「だぜ!」
とクーパー。
「クーパー……ってーと……」
水月としても、聞いたことのある名前だ。
思い出したのは、答え合わせの後だが。
「フレイム=クーパー先生。炎術師ですよ」
「ああ、炎術師か」
水月たちとは、違う学校に通う、イクスカレッジの生徒である。
『炎術師』
その二つ名の通り、炎を自在に操る、魔術師である。
炎……『火』はイメージしやすく魔術向きで、五行相克や四大元素にも通ずるため、シンボリック魔術の先頭だ。
「魔術を覚えたいなら、頭ではなく火を使え」
とはイクスカレッジでのジョークの一つである。
水月たちとは学校が違うが、炎術師フレイムは、所属する学校に於いて、双璧の一人とされている。
「で」
そこまで理解した後、
「何で戦う必要が?」
とは自然の摂理だ。
水月の悪辣さ加減は、既にイクスカレッジの知るところ。
「面倒な奴は皆殺し」
水月の平和哲学である。
炎術師が、現代魔術師であることは、水月も聞いている。
そして、これは、実は偉大なことだ。
現代魔術の理論を旨として、大成する魔術師は少ない。
一現ともなれば、ソレこそ、カレッジの財産と言える。
水月が殺せば、貴重な財産が目減りするのだが、
「それを弁えているのか?」
は素朴な疑問だった。
チョコを飲む。
「表に出ろ!」
「嫌」
こればっかりは業だ。
「何故だ!」
「寒いから」
「…………」
赤い瞳が、半眼になった。




