エピローグ
イクスフェス最終日。
水月と椿は、セントラルタワーに拘束されていた。
シンメトリカル・ツイン・トライアングル……その正位置に呼ばれたからだ。
ようやっと肩の荷が下りて、自由にイクスフェスを楽しめる……と思った矢先の、精神的ラリアット。
疲弊するのもしょうがない。
イクスカレッジを舞台に、神話の再現と、世界の覇権をかけた、プロジェクト=リラグナロック……その全容を吐かされたのだ。
教会協会グノーシス派と、国連ワンワールド派は、水月たちの証言によって、ストパンと諍いを起こした。
水月には、死ぬほどどうでも良いが。
敷設された結界も取り除いて、顔をさらされ指名手配。
特異点である……逆位置の潜むソレならば話は別だが、簡易な結界程度は、ストパンでもどうにでもなる。
行方不明者の末路。
そを材料に作られた人造人間。
カバラ学とセフィロトの樹。
グノーシス主義の体現。
ヤルダバオト。
悪神である、無数の貌を持つ蛮神。
結果自体は、コロシアムにいる観客も見ているため、ソレについては答え合わせだったが。
そんなこんなを話している内に、イクスフェスは過ぎていき、最終日まで、セントラルタワーのビルの高みから俯瞰する事で、無聊を慰める他ない水月と椿であった。
「勘弁してくれ」
とは水月の言。
――終わった事を、蒸し返す。
人の事は、まるで言えない水月ではあるが、
「ほじくってどうしようというのか?」
それもまた真理だ。
「結果的に、第二魔王の野望が潰えたのだから、ソレで良しとしようぜ」
一字一句は正確ではないが、シンメトリカル・ツイン・トライアングルの追求に、何度かそう進言した。
証言としての吐いた言葉の真実性は、ストパンに拘束された人間の証言と擦り合わせる形で、確認される事だろう。
セントラルタワーを出ると、日は既に暮れて、夜になってた。
とりあえず出店の焼き鳥を買って、無料配布のビールを飲みながら、
「すまんな」
水月は、今更な事を、椿に言った。
当然、椿にしてみれば、
「何が?」
ということになる。
「状況の解決のためだけに、お前を利用した事だ」
砂肝を食べながら不機嫌そうに。
ビールを呷る。
「楽しかったから別に良いさ。アダムについては同情するけどね」
「だぁな」
水月にも、異論は無い。
一番不幸なのは、間違いなくアダムだろう。
世界に絶望する触媒として、アリスを利用され、全知全能になったがために、
「椿に殺される未来を予知して狂った」
ヤルダバオト。
グノーシス派の気持ちも勘案できれば、ワンワールド派の気持ちも斟酌出来る。
一言で済ますならば、
「ネオコンも大変だな」
で終わるが。
連絡を取り合って、ラーラたちと合流する。
「先輩!」
「水月!」
「兄貴!」
かしまし娘が、破顔して、水月に走り寄った。
「結局何だったんだ?」
忍が説明を求めたが、
「あー。今は思い出したくないから今度な」
水月は、サックリ切り捨てた。
一応、世界の平和は守れたため、「此処で万事めでたし」と行きたいところだった。
「厄介事なら、俺も混ぜてくれば良かったのに」
「また今度な」
クシャクシャ。
忍の髪をかき混ぜる。
「約束だぜ?」
「ああ、異論は無い」
もっとも、口約束の支配力について、水月は軽んじる傾向にあるが。
「結局大丈夫なんだよね?」
ラーラが問う。
それなりの付き合いだ。
水月が、厄介事に巻き込まれた事に、疑念を覚えないラーラ。
「どうせ先輩の事だから」
が頭に付く。
それは真理も同じだった。
「飽きませんね」
わかっている。
そんな婉曲的な結論だ。
「お前らが、俺を、どう思っているのかは、よくわかった」
水月としては、ふて腐れるより他に無い。
ハツをガジガジ。
「お前らは楽しめたか?」
イクスフェスだ。
「ええ、それはもう」
「中々勉強になりました」
ラーラと真理は、和やかに言う。
「なんだかね」
嘆息。
ほとんどイクスフェスを楽しめなかった水月にすれば、二人はあまりに眩しい。
一種の平和の象徴だ。
水月とて状況に巻き込まれる側ではあるが、それでも山あり谷ありの過去を顧みると、どうしても嘆かざるを得ない。
「そういう星の下……」
というのは通じない。
天動説は否定され、地動説が支配する世界だ。
星の巡りは、地球の自転の結果。
星占いは予知の一種ではあるが、それもこれも、
「魔術師にとっては」
であって、星そのものは、何光年か彼方で光る恒星の名残だ。
鶏皮をガジガジ。
「だいたい時間だね」
ラーラが云う。
「ですね」
真理も頷いた。
「何がだ?」
「イクスフェス最後のイベントです」
「ああ」
一応、去年も、ソレで終わった。
花火である。
一万発の花火が、夜空に咲いて散る。
「た~まや~」
君待つと吾が恋ひをればわが屋戸のすだれ動かし秋の風吹く。
「そう思っていたんだがなぁ……」
言葉は言霊を持つ。
――『月』と『花』の名を持った二人。
であれば、これもまた一つの必然と言えた。
水月とてアダムの……ヤルダバオトの存在はともあれ、観念に於いては、否定できなかったのだ。
秋の花が、咲いて散る。
この未来を、アダムは見たのか?
一種の命題ではあったが、答えは出なかった。
ちょうど時間と相成りました。
これにて現魔定「RE:ラグナロック ~人々の黄昏~」編は完結にございます。
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