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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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只野真理のいる日常03

「なーんで俺が今更トランスセットの講義になんか出にゃならんかったのだ……」


 うんざりとしながら水月は道を歩く。


 その隣で並んで歩いている真理が人差し指を立てて教鞭のように振るう。


「ちゃんと講義に出ること……それが魔術師に必要な態度です。少なくともイクスカレッジにおいては」


「俺は既に魔術師だ」


「でも私は魔術師じゃありません」


「ならお前だけ講義に出ればいいだろ。俺を巻き込むな」


「それこそいけませんよ。役水月という抑止力あってこそ私の自由が認められているんですから」


「やっぱりその提案は却下すべきだったなぁ……」


「もう遅いです」


「さいですか」


 水月は嘆息する。


 ヒュルリと風が吹き水月と真理の髪を撫でた。


「まだ涼しい季節ですね」


「ああ、春は良いもんだ」


 桜も咲くしな……という言葉を呑みこむ水月。


「とまれ……水月、今どこに向かっているんです?」


「ダアト図書館」


「え……? ということはラーラとのデートですか?」


「他に何がある?」


「私、完全に出歯亀じゃないですか……」


「別に構わんだろ。空気だと思えば」


「ラーラに申し訳ありません」


「じゃあ勝手にどっか行っとくか?」


「それはできません。私は水月の監視下にないと……」


 髪に結んだリボンを弄りながら気後れしたように真理。


「でも別にお前は人を襲う気はないんだろ?」


「さあ? でもアンデッドって人の脳を喰らう衝動は確かにあるんですよ? それが何のためなのかはわかりかねますけど……」


「それはそうだろうよ」


 全てを知っている水月はそう返すしかなかった。


「じゃあお前はついてくるしか選択肢はないわけだろ?」


「それは……そうですけど……」


「別にデートを邪魔する気はないんだろ?」


「それは……そうですけど……」


「なら構わんじゃないか」


「そういう問題でしょうか……」


「そういう問題だ」


 あっさりと水月は頷く。


 そうこうしている間に水月と真理はダアト図書館につく。


 透明なダアト図書館の入り口にはラーラが立っていた。


 ラーラはパーマのかかった茶髪を弄りながら手鏡を睨みつけていた。


 化粧もしていて、カジュアルでありながら全身をブランド服でかためていた。


「気合入ってるなラーラ……」


 手鏡に集中しているラーラに水月は皮肉る。


 そんな水月の言にラーラはハッとなり、水月を捉える。


「水月先輩……!」


 喜色の声で水月を迎えるラーラ。


 そして、


「だって先輩とデートですよ? 気合くらい入るってものです」


 お前も懲りないね……とは水月は言わなかった。


「遅れてすまん。久しぶりに講義に出たからな。疲れてしょうがなかったんだ」


「……っていうか先輩……」


「何だ?」


「なんで真理がいるんです?」


「なんでってな……監視対象だからだろ」


「まさか真理を連れて私とデートする気なんですか!」


「まずいか?」


「先輩は乙女心をもう少し学ぶべきです……!」


「んなこと言われてもな……」


 ガシガシと後頭部を掻く水月。


「では私は先に宿舎へ戻っています……」


 空気を読んだのだろう真理の退散しようとする首根っこをひっつかまえて、


「ほっといて人を食われても面倒だ」


 そう忠告する水月。


「しかし……」


 罪を迫られた時の様な表情の真理。


 そこにラーラがあたふたと言い訳をする。


「いや、その……真理が邪魔ってわけじゃないんだよ?」


「でもデートですよね?」


「デート……ではあるんだけど……」


「…………」


 ふむ、と心の中で納得し、


「なら……」


 と水月が提案する。


「真理も俺とデートすればいい」


「「は?」」


「だから俺はラーラとデートする……ついでに真理ともデートする……。二股デートならいいだろ?」


「それは……ちょっと……」


 冷や汗を垂らす真理に、


「いいんじゃないですか?」


 楽観的なラーラ。


 真理は驚いたようにラーラを見た。


「いいんですか……?」


「いいよー」


 どこまでも楽観的。


「どちらにせよ先輩が真理を見張らなきゃならないなら三人で遊ぶって方がまだしも賢い選択だと思うんだ」


「然り然り」


 うんうんと水月も頷く。


「なら、よろしくお願いします……」


 おずおずと納得する真理。


「じゃあとりあえずロマンスに行くか」


 方針も決まったところで水月がそう切り出す。


 ダアト図書館のすぐ近くの喫茶店だ。


 歩いて五分もない。


「俺はアイスコーヒー」


「私おまかせケーキセット」


「私はアイスティーをお願いします」


 そんなこんなで三人は注文を終えると、テラス席にてまったりと気を抜いた。


 注文が届くのにさほどの時間は必要ではなかった。


「それで? この後どうする気だ?」


 コーヒーを飲みながら水月がラーラに問う。


「そうですね……。とりあえずここでまったりして、その後南の繁華街まで足をのばそうかと……」


「繁華街……ねえ……」


 ふぅむ、と思案する水月。


「服見て回ったりとか。カラオケもいいかもしれませんね」


「カラオケはともかくウィンドウショッピングは却下」


「ええ~。でもデートってそういうものでしょう?」


「じゃあ聞くがデートの本質は何だ?」


「デートの……本質……?」


 聞き返すラーラに、


「デートの本質」


 コクリと水月は頷く。


「それは好きな人と遊ぶこと……じゃないですか?」


「遊ぶだけでいいのかよ」


「駄目ですか?」


「駄目とは言わんが……俺はデートって奴は好きな人と分かり合うことなんじゃないかと思うんだが……」


「それは……そうですね」


「だからさ。お互い面白いと思う映像作品借りて見合わね? それこそ文化的交流だと俺は思う」


「それはそれでデートじゃない気も……」


 ケーキを食べながらラーラ。


「それなら……」


 真理が挙手する。


「何だ?」


「なに?」


「映画館などどうでしょう?」


 髪のリボンを弄りながら真理はそう提案する。


「ほう……」


「なるほど……」


 納得する水月とラーラ。


「じゃあそれで」


「いいですね」


「はい……」


 水月はコーヒーを飲みながら情報端末をポケットから取り出す。


 それから端末を操作してイクスカレッジの繁華街にある一番大きな劇場……アークシネマズの予定を検索する。


「やっぱりデートならロマンスですよね」


 とラーラが頬を赤くしながら言う。


「私は日本映画が見たいです……」


 と遠慮がちに真理が言う。


「お、マジックヒーローって映画……イクスカレッジを舞台にしたハリウッドアクションらしいぜ……。これ良くね? B級映画の匂いがプンプンする」


 と水月が言う。


「「「…………」」」


 三者三様の沈黙。


「「「…………」」」


 水月はコーヒーを飲み、ラーラはケーキを食べて、真理はアイスティーを飲む。


 次の瞬間、


「「「最初はグー! ジャンケンポン!」」」


 息も揃えて三人によるジャンケン大会が始まった。


 勝ったのは水月。


「じゃ、マジックヒーローな」


 我が意を得たりと勝ち誇る水月。


「デートでは女の子を喜ばせるのが男の子の役目じゃないんですか?」


「知ったこっちゃねえな~。そんなこと~」


 ご機嫌に水月は返す。


 それから三人はロマンスでまったりとティータイムを過ごし会計を済ませてモノレールに乗った。


 目的はイクスカレッジ南方の繁華街。


「まぁもうこの際何でもいいですけど……」


 早くもラーラは諦め模様だった。

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