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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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只野真理のいる日常02

「あー死ぬ。本気で死ぬ」


 コンスタン研究室でのこと。


 水月は水で濡らしたタオルで目を覆って、椅子にぐったりと座っている。


「たかだか午前中の講義を受けただけで何言ってるんですか。しかも途中から完全に寝てましたよね水月は」


 コンスタン研究室の新たにできた机に座ってパソコンをいじりながら真理。


「お前から目を離すなって制限がなけりゃ平然とサボってやったのに……」


「そういうことは思ってても言わないものです」


「平然とサボってやったのに……」


「ああいえばこういう……」


 はぁとため息をつく真理。


 そこにラーラがコンスタン研究室に入ってきた。


「先輩、真理さん。お昼買ってきましたよ」


「んー、てきとうにそこらへんに置いといて」


「ありがとうございますラーラさん」


「いえいえー」


 そう言ってニコニコと笑うラーラ。


 と、水月が目を覆っていたタオルをとって、それから椅子を回転させて、背もたれをいっぱいに傾けて反り返ると、視界上下逆のままラーラと真理に言った。


「お前らさ。さんづけ止めろ。背中が痒くなる」


「え、でも……」


 困ったような顔をする真理。


「私は全然いいですよ」


「はい賛成一。もう一票は?」


「では私も……」


「よろしくね真理」


「はい、よろしくですラーラ」


「はい、これ、先輩の分」


 そう言ってカツサンドとカレーパンと野菜ジュースを水月の席に置くラーラ。


「感謝」


 とだけ言って背もたれに寄りかかったまま手をのばさない水月。


 コロッケパンを食べながら真理が言う。


「水月、次の講義はトランスセットですよ。早く食べて行きましょう」


「いや、俺はいい。一人で行け」


「そういうわけにもいきませんよ。独断専行は許可されていません」


「人は自分の意志で歩いてこそ一人前と言えるのではないか」


「いいこと言ってるつもりですか……」


 呆れる真理。


 水月はまた自分の目を覆うように濡れたタオルを乗せると、ラーラに向かって言った。


「そういやラーラ」


「はい、なんでしょう?」


「今日デートするか」


「「へ?」」


 疑問の声は二つ上がった。


「…………」


「…………」


「…………」


 三者三様の沈黙。


 それから真理が真っ赤になった。


「で、デートってどういうことですか!」


「ん~、昨日ラーラとデートするって約束したからな」


「お二人は付き合っているんですか!」


「いや、付き合ってはいない」


 そんな水月の言に、


「……そんなはっきり言わなくても……」


 ぼそりと呟くラーラ。


「また甘味所ロマンスでいいか?」


「そうですね。あ、でも、ちょっと今日はデート用の服じゃありませんから一度家に帰らないと……」


「別にそんなの気にせんでも……」


「これは乙女の領域です。男たる者その違いをわかるようにならないといけませんよ」


「じゃあ放課後ダアト図書館に集合ってことで」


「はい。じゃ、私はこれから帰宅しますので」


「あの、ラーラ? 次講義ですよ?」


「サボります。では~」


 そう言って足取り軽くコンスタン研究室を出ていくラーラ。


 真理が引き留める暇もなかった。


 水月はというと、


「さて、寝るか……」


 目に濡れたタオルを乗せたまま背もたれいっぱいに寄りかかって睡眠をとろうとしていた。


「寝ちゃだめですよ。次講義です!」


「コンスタン教授の講義は出たし義理は果たしただろ」


「もう! またそういうことを……」


 くどくどと言おうとし始めた真理が言葉を発するより早く、


「あー、疲れたぞ……!」


 ラーラが出て行った扉から今度はケイオスが入ってきた。


 目にタオルを乗せたまま水月が言う。


「その声、ケイオスか」


「そうだ。お、野菜ジュースがあるではないか。もらうぞ」


 そう言ってケイオスは勝手に水月の分の野菜ジュースをとってストローを指して飲み始める。


 どこか不機嫌そうなケイオスの声を聴いて察する水月。


「やっと休憩か? 何やら忙しそうだな」


「切り裂きジャックの件だ。とうとう警察の被害が出た。ばっさりと一太刀。見事な手際だ」


「まぁ……だろうな……」


「そう言えば昨日は聞かなかったが犯人は見たか?」


「見たぞ」


 ケイオスは全力で水月の座っている椅子を蹴倒した。


「げふぁ……!」


 唐突の凶行に椅子ごと倒れる。


 水月は顔にかかったタオルを引っぺがして、


「何しやがる!」


 ケイオスに抗議する。


「何はこっちのセリフだ! そういうことは何故もっと早く言わんのだ貴様は!」


「別に俺の管轄じゃねえし……」


 言いながら椅子を立て直して再度座る水月。


「どういった奴だ!」


 ケイオスの気迫に押されながら水月が言う。


「ええと……うろ覚えだが黒髪のセミロングの日本人だ。男のくせに女の着物着てたな……」


「それだけわかれば十分だ」


 ケイオスは携帯電話を取り出すと電話先に渡辺椿の特徴を伝えた。


 と、水月が忘れていたとばかりに言う。


「あ、これは私見なんだが……」


「なんだ」


「並みの警察じゃ捕えられんぞ。俺クラスの体術の使い手は警察にいるか?」


「いるわけなかろう」


「じゃあ捕まえるのは難しいな」


「…………」


 沈黙するケイオス。


 水月はラーラが買ってきたカツサンドの封を開けて食べ始める。


 ケイオスは野菜ジュースをすすって失くすと、近くのゴミ箱へと投げ入れた。


「役君、貴様本気でストパンにこないか?」


「断る。犯人殺していいってんなら大歓迎だが」


「この件が終わったら話し合おう。どうも貴様の力は有用のようだ……」


「だから嫌だって」


 どこまでもけんもほろろの水月。


 ケイオスは腕時計で時間を確認して渋い顔をする。


「もう時間か。私はこれで行く。役君、先の件、考えておいてもらうぞ」


「嫌っつっとるのに聞かんやっちゃなぁ」


 コンスタン研究室を飛び出したケイオスは本当に水月の言葉など聞こえて無いようだった。


 と、水月の前に真理が立つ。真理はニッコリと笑った。


「水月、次の講義です」


 それは有無を言わさぬ笑顔だった。

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