表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
RE:ラグナロック ~人々の黄昏~
369/545

怪物と呼ばれる者よ13


 バーを出ると、良い時間だった。


 月が傾き、夜気が涼しさを演出する。


「とりあえず帰るか」


 との水月の言で、コンスタン研究室を目指す二人。


 が、


「……そうなるよな」


 当然、神威装置が、黙っているわけもない。


 結界に取り込まれた。


 景色自体は変わらないが、反転の作用が、ほろ酔いの脳に良く響く。


「来やれ。大通連」


 椿が呟く。


 すると、結界による世界の隔絶をも無視して、大通連が飛んで来た。


 椿の手元で静止し、腰に差される。


「呑まれてはいないらしいな」


「そっちこそね」


 互いに皮肉り合う。


 夜の結界に現れたのは、漆黒の狼だった。


 黒く暗い……人よりも大きな獣。


「狼……」


 椿が呟く。


「…………」


 水月は、思案にかられていた。


 狼は、日本では神性の象徴だが、欧州では悪性の象徴である。


 これは、


「狩りを神性とする日本の信仰」


 と、


「家畜を襲う欧州の信仰」


 の違いだ。


 元より、放牧の文化が希薄だった日本では、狩りを行なうにとり、そのエキスパートである狼を尊敬した事が起源となる。


 特に、アイヌ民族にとって、ニホンオオカミは今でも敬意の対象だ。


 対して、畜産放牧を生活の糧としていた欧州では、狼は悪の象徴だ。


「人間の財産である家畜を食い殺す」


 と捉えられ、時に悪魔の遣いとまで言われる。


 教会協会が手を組む相手としては、最悪とも言える。


 それが、むしろ水月を、冷静にさせた。


「本当に裏にいるのは神威装置なのか?」


 と。


 折角、心地よく酔っていたところに、冷や水を浴びせられた様子だ。


 思考がグルグル回るが、決定的な結論は出ないまま霧散する。


 とりあえず現実の対処が先だ。


 例え明日死ぬとしても、今日の食事を取らないで良い、という理由にはならないのだから。


 心眼で探っても、威力使徒の影は掴めない。


「椿」


 と呼びかける。


「お前の心眼で、狼以外の存在は感知できるか?」


「今のところは引っかからないね」


 要するに、


「目の前の狼だけ」


 そういう理屈だ。


「――――!」


 底冷えのする鳴き声を上げる狼。


 夜の帳に紛れる漆黒の体毛は、視覚で捉えるには困難だ。


 だからといって、困る水月や椿でもないのだが。


 威力使徒の脅威がないと判断し、目の前の狼に注力する水月。


 吠えて襲いかかってきた狼。


 対する水月は、


「――千引之岩――」


 とマジックトリガーを引いた。


 異世界の構築。


 言ってしまえば、それだけだ。


 異世界に捕らわれている以上、基準世界には干渉できない。


「うーむ」


 水月は唸った。


「どうするコレ?」


 椿に尋ねると、


「まぁ禍根は残したくないよね」


 常識論で返される。


 狼のうなり声が響いてくるが、檻に入れられたも同然で、脅威はない。


 要するに狼を基準として、その周囲に千引之岩で、立方体を作ったのである。


 千引之岩は、世界と世界を分かつ壁。


 である以上、


「空間隔絶に囲まれた空間は異世界と呼べる」


 という理屈が罷り通る。


 実際は、透明なガラスケースに入れられたようなモノだが、現実世界に干渉できないという点を以て『異世界』と言えるだろう。


「本当に節操ねえな」


 うんざりと、水月は言う。


「何が?」


 と椿。


 水月は、欧州における狼の信仰について語る。


「となると……」


 聡い椿だった。


「もしかして敵は神威装置じゃない?」


「可能性としてな」


 少なくとも、現実で、教会協会と狼が、相容れるはずもない。


「で、どうするの?」


 目の前の狼をどうにかするのが、最優先事項。


 それは水月とて分かっている。


「殺しておこうか」


 水月はそう云う。


「というわけで後は任せた」


 千引之岩を解く。


 自由になった狼が、襲いかかる。


 人間より二回りほど大きな狼ではあったが、


「…………」


 椿の強制終了の前には、一介の獣でしかない。


 居合いの要領で、大通連を抜き放ち…………一閃。


 斬殺付与。


 椿の聖術を受けて、狼は死んだ。


「こういう時に便利だよな……お前」


 なんとなく、そんな呟きをする水月だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ