怪物と呼ばれる者よ12
水月と椿は、バーに入った。
ジャズと、薄暗い照明が、出迎えてくれる。
行く道に神威装置の干渉は無かった。
幸か不幸かは、この際判断に困るが。
とりあえずカウンターの席について、バーテンダーに注文。
「ベルギービール。それからたこわさ」
淀みなく注文する水月。
バーテンダーとは既に顔見知りであるため、阿吽の呼吸だ。
大きめのグラスに、並々と瓶ビールが注がれて、差し出される。
たこわさと共に。
「…………」
椿は品書きを見て、眉を寄せていた。
「何頼んでもいいぞ。こっちで持つ」
「どれが美味しい酒なの?」
「まぁそうなるよな」
そもそも、
「不味いと思われる酒」
をバーが仕入れるわけもないが、呑む人間によっても好悪平はあるだろう。
「こいつにもベルギービール」
水月は親指で、隣の椿を指し注文。
「日本では日本酒や焼酎しか飲まなかったからね……」
そういうことらしい。
「ビールは飲んでるんだろ?」
「まぁ一般的な日本のソレなら……」
「白ビールや黒ビールも美味しいぞ?」
「酒に詳しいの?」
「うんにゃ」
グイとビールを呷る。
「全部聞きかじり」
グラスを置いて苦笑する。
「ふぅん?」
肯定か否定か、わからない言葉を発した後、ベルギービールを飲む椿。
「むぅ。美味いね……」
「なら良し」
水月も呷る。
「ところで神威装置だけどさ」
酒を飲んで、肴を味わいながら、椿が言う。
「Xデーってやっぱりイクスフェス?」
「だろうな」
水月もその程度は、予想しえる。
イクスカレッジが国際化領域にある必然、国連がスポンサーになるのは、まっこと自然と言えるだろう。
が、教会協会にとっては、悪魔に献金するも同然だ。
裏があって然るべき。
陰謀論になるが、
「腹に一物ある」
は、自然な思想の潮流である。
「それを知るためだろう?」
「何がだ?」
「こうやって夜遅くに外出するのも」
「…………」
グイとビールを飲み干す。
たこわさコリコリ。
とりあえずブランデーを注文して、水月は言った。
「お見通しか」
「まぁ水月を見てればね」
苦笑してビールを飲む椿。
「おや? 何のことでしょう?」
バーテンダーが、会話に参戦してきた。
「パンドラの箱」
水月が牽制する。
「見るなのタブーだね」
椿は苦笑する。
ブランデーを飲んで、舌を楽しませた後、チェイサーで口直し。
「役先生ならば不都合は不都合では無いでしょう?」
「そうも言ってられないのが浮世の面白いところでな」
「あまり過激な事はされない方が……とは思いますが……」
「実は俺も本意じゃない」
トラブルメイカーである事は否定できない。
しかし何故か、
「頼みもしないのに厄介事が這い寄ってくる」
のが水月の宿業だ。
「酒でも飲まねばやってられない」
故にバーである。
「こうやってアルコールで鬱憤を晴らせるなら安いもんだよな」
「光栄の極みですな」
静かにバーテンダーが笑う。
「水月?」
「何だ?」
「次の酒……」
「リモンチェッロ」
椿の代わりに、水月が注文する。
その通りに、グラスに注いで、リモンチェッロを椿に差し出すバーテンダーだった。
飲む椿。
「美味しいね」
「なら重畳」
水月は、ブランデーを飲みながら、そう言った。
「結局どうしたもんかね」
「相手の出方次第じゃないかな?」
「帰り道に期待だな」
物騒な事を言う水月。
間違ってはいないのだが。
「水月は神様に愛されてるねぇ」
「祭りは神様に捧げる物だからな」
「酒も……かい?」
「当然だろ。肉がパンで血はワインだ」
盛大に、一神教を皮肉る水月だった。




