怪物と呼ばれる者よ04
「――TheWorld――」
タロットのアルカナをパワーイメージと持つ……コンスタン教授の魔術の一端。
タロットにおける最終ナンバーであり、
「世界の構築」
つまり、神の御業の再現。
言ってしまえば結界だが、魔術による関でもある。
コンスタン教授にとって、都合の悪い人物の排除を、命令された世界。
害的な魔術では無いため、神威装置ならびに威力使徒にも、どうにもならない領域。
要するに、
「コンスタン教授にとって有益な人材」
である、水月たちにとっては、
「コンスタン教授の財産」
との認識が働き、
「その保護を行なう」
という、出力が為される。
あくまで、コンスタン研究室の、ビルの中では……の話ではあるが。
とりあえず、研究室は、一定の不満さえ飲み込めば、生活するに不備は無い。
とはいえ、材料は、買い出しに行かねばならない。
別段食材ならば、取り寄せる事も出来るが、神威装置からの干渉でしか事態の把握は出来ないため、どうしても釣りに落ち着く。
「というわけで行ってくる」
「留守番の労……頑張ってね」
水月と椿が、買い出し係になった。
忍も、強行に、着いていこうとしたが、
「邪魔」
水月の一声で、黙らされた。
実際に、その通りなのだ。
ブレンドブレードが、使えないのが痛い。
単純な力比べならば、イクスカレッジでもトップクラスだが、こと威力使徒相手だと、どうしても後れを取る。
もっとも剣術の理……それ自体は持っているため、刀さえあれば十分、威力使徒とタメを張れるだろうが、問題の刀が無いため、今のところ自重だ。
そして買い出し班の二人が、日本人向けのスーパーまで、足を向ける。
完全に神威装置のブラックリストに(今更だが)載っているため、戦闘は避けられなかった。
意識の反転。
結界内に招かれたのだ。
そして、
「あらら」
「へ~」
二人は、怪物を見た。
背に、翼の生えた犬。
大きさは、人より二回り以上。
「グリフォン?」
椿がそう評すると、
「多分グラシャラボラスじゃないか?」
水月が、アンチテーゼを、提供する。
「グラシャラボラス?」
「ソロモン七十二柱の一柱。悪魔の大総裁」
「ソロモンねぇ……」
「殺戮の使者にして人を透明に出来るとか何とか」
「詳しいね」
「魔術史において、避けて通れない名前だからな」
うんざり、と水月は言った。
「――千引之岩――」
水月は、異世界を構築して、引き籠もった。
椿も一緒に。
「…………」
椿は、不可視の障壁を、コンコンと叩いて、
「何コレ?」
と尋ねる。
「魔術障壁だ」
言った瞬間、カツン、と障壁を、何かが叩いた。
転がったのは釘。
一般的に『仮想聖釘』と呼ばれる、破魔の釘だ。
「ギシャア!」
グラシャラボラスも、襲いかかってくる。
もっとも、魔術障壁を突破する事なぞ、出来はしないのだが。
「嫌な予感ってのは当たるもんだな」
水月の、疲労による吐息。
「侮辱かもしれんが、剣と魔術を並列させる事は出来るか?」
「そりゃまぁ」
今更何を……である。
「ていうか……出来ない魔術師なんて、いるの?」
「良い意味で擦れてないなお前は」
「?」
「魔術と武術を並列できるのは、古典魔術師でも一握り。まして……新古典魔術師や近代現代魔術師は、強い精神集中を必要とするため、魔術を行使するにあたって、隙だらけになるのは、案外、普遍的なんだよ」
「そんなものかなぁ?」
「ま、ことお前に限っては杞憂か。ただし魔術の行使の際は、仮想聖釘に気をつけろ」
「それもなして?」
「仮想聖釘はチャーマーズアクチュエータ。魔力を吸って、魔術を出力する、マジックアイテムだ。魔力を喚起したタイミングで、聖釘に刺されたら…………死ぬぞ」
――それならそれでいいんだが。
「相わかったよ」
そして、腰に差した大通連を、スラリと抜く。
「じゃ、魔術障壁を解くぞ」
「うん」
水月が、パチン、と指を鳴らすと同時に、千引之岩が消え失せる。
それから二人は、左右に離反した。
空を飛んでいるグラシャラボラスが、空間を引き裂くような鳴き声をあげて、襲いかかる。
殺戮に特化した悪魔。
その爪と牙は、確実に人を殺すための物。
狙いは水月。
ただし水月は、被害者などと云う、可哀想な立場では、無かった。
「オンマユラキランデイソワカ」
思考のリミッターを外す。
ほぼ同時に、
「――迦楼羅焔――」
灼熱の塊を、神鳥の姿に変えて、撃ち込む。




