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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
RE:ラグナロック ~人々の黄昏~
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祭の陰の不吉12


 太陽が沈んで、月が昇る。


 星々の輝きは幻想的で、これから侵そうと考えている水月の不忠を咎めることもしないのである。


 基本的にゾンビワールドでも構わないのだ。


 水月にとって世界とは。


 とりあえず裏街に入って麻薬を買う。


 特に痛い出費でもない。


 服用するつもりもないが、必要経費だ。


「ジュエルの居場所は知ってるか?」


 そう売人に問うと、


「ワイバーンのはずだ」


 と返された。


「どうも」


 と一礼して、麻薬をポケットにしまい裏街を歩く。


 絡まれることはなかった。


 水月の顔が売れているのも一つだが、運が良いのも一つだ。


 基本的に、狐は魔術師を襲う。


 イソップ童話における狐と葡萄の逸話から、魔術を覚えられなかった劣等生を狐と呼ぶ。


 そして狐は、魔術を使える人間に怨恨を持つ。


 勝手な話ではあるが、そもそもそれを解決できるのなら人類は戦争をしたりしない。


 とりあえず禍根無くクラブを見つける。


 ネオンでワイバーンと書かれたソレだ。


 地下への階段を降りて扉を開ける。


 中に入ると熱気が襲ってきた。


 重低音が心臓に響き、クラブの熱が耳を叩く。


 派手な音楽がこれでもかと流されて、パッションに任せてクラブの人間が踊り狂う。


 水月はカウンターに座って店員を呼ぶ。


「ご注文は?」


「水でいい」


 ちなみに浄水であるため金も取られる。


 麻薬と同時に先払いして水を受け取ると、


「ジュエルは居るか?」


 そう尋ねる。


「ええ」


 と店員。


 いつものVIPルーム。


 そう聞く。


 水を飲み干して、勝手にVIPルームへと足を運ぶ。


 無遠慮に扉を開けて中に入ると、素早く扉を閉める。


 それだけで派手な音楽はシャットアウトされ、VIPルームは静寂に包まれた。


 中に居たのは、虹色の髪の男性。


 裏街を取り仕切る頭目の一人。


 名をジュエルという。


 こと裏街での面倒において、水月を補佐する一人と言っていい。


「遅れたか?」


 水月が挨拶すると、


「滅相も」


 とジュエルがフォローする。


「むしろお呼びだてして申し訳ありません役先生」


 ソファから立ち上がって丁寧にジュエルは言った。


 裏街の頭目の一人ではあるが、


「仮に、自身の権力の及ぶ範囲での戦力を水月にぶつければどうなるか?」


 その結果を、聡明に見通せる人間でもある。


 こと、そういう嗅覚が優れているからこそ、水月と円満にやれるのだが。


「こっちが迷惑をかけるのは相応だが、そっちから連絡を貰うのは珍しいな」


「お忙しかったですか?」


「いや、暇ではあるな」


「例のアンデッドは?」


「置いてきた」


「何か飲みますか?」


「焼酎」


「すぐに準備させます」


 内線にて命令し、ワイバーンの店員が焼酎の入ったグラスを二人分用意する。


 グラスを傾けて、それから本題に入る。


「ここ数日で行方不明者が立て続けに出ています」


 水月にはあまり聞きたくなかった言葉だった。


「規模は?」


「数十人……少なくとも三十人は確実に……。情報が錯綜して正確な人数は何とも……」


「まぁ犠牲者を調達するなら裏街が適してるよな」


 善良な一般市民をさらえばニュースになるが、脛に傷ある人間の場合は警察を頼りづらいのだろう。


 警察の方に情報が行かないのは必然だ。


「それから……問題は女性ばかり狙われてるって所ですね」


「女ばかり……ね。百パーセントか?」


「とは言いませんが確認している三十人の内、男は五人っす」


「六分の一か」


 問題は、誰が、何故、そんなことをしているか……である。


 警察は、害的魔法生物の仕業と見て、尚且つ「役職を神威装置に奪われている」と取っている。


 神威装置は、襲われたカレッジ生の死体を一方的に回収して、棺桶に仕舞っているらしい。


 それから裏街で多発する失踪事件。


 イコールで結ぶな、という方が無茶だ。


「少なくともわかっているだけで三十人」


 ジュエルはそう言った。


 であれば、二倍から三倍の規模を想定しても、全く自然だ。


 グラスを傾ける。


「状況はわかった」


 水月の方も、問題事の一つとして捉えられる。


「とりあえず神威装置と話すべきかね?」


 思案。


「しんいそうち?」


「何でもねえよ」


 ジュエルの言葉をサラリと流す。


「徹底的な証拠隠滅……」


 グラスを傾ける。


 場合によっては、個人的な戦争に発展しうる。


 人を襲う魔法生物。


 その死体を漁る神威装置。


 警察の後手。


「あまり気乗りはしないな」


「駄目っすか?」


「いや。原因の排除は努力する。ただ、それがジュエルや裏街のためじゃないことは、承知して貰う」


「間接的にでも落とし前をつけてくださるなら、これ以上はないっすよ」


「さいか」


 水月はグラスを傾けた。


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