祭の陰の不吉11
研究室に顔を出し、催し物の突き詰めをした後、ラーラと忍を拾って宿舎に帰る水月たち。
帰り道の途中で今日の出来事を話すと、忍が椿を尊敬の目で見やった。
ちなみに忍でも出来る範囲の事柄だ。
夕食の海鮮パエリアを食べていると日が暮れた。
秋も深まる季節であるため日没もまた早くなる。
「さて」
と水月は外出用の出で立ちになる。
「出かけるんですか?」
これは真理。
水月は真理の監視役だ。
真理に対する抑止力でもある。
水月が出かけるならば真理もついていく。
至極当然の認識。
「ちと用があってな」
水月はジャケットを羽織りながらそう云った。
「風呂は?」
「帰ってから入る」
どうせ男の入浴は最後である。
そう付け加えて。
「しばしお待ちを」
真理が出かける準備をしようとして、
「お前は留守番してろ」
水月が制止をかける。
「え?」
と真理。
無論、監視役の務めを放棄した水月への疑問だ。
「ちと物騒な案件に首を突っ込む」
首を鳴らしながら水月は言う。
「だから真理は留守番してろ」
と。
「抑止力は?」
「椿が担ってくれるだろ。一度殺されたお前なら逆立ちしなくとも椿に遠く及ばないことくらい承知してるよな?」
椿は大通連を油紙で磨いていた。
マンアークインタフェースであるため、よほどのことがないと傷一つ付かないのだが、
「剣は関節の延長」
を旨とする椿にとって剣の手入れはアイデンティティの一欠片だ。
その一閃があれば真理といえども生きていられない。
北斗星君の祝福。
強制終了。
苦い記憶が真理の思考に透けて見える。
ちなみにそんな事態に発達した場合、真理の親であるヴァンパイアの非難と不満の矢面に立たされるのは水月なのだが、それでも真理を連れて行くわけにはいかなかった。
何と言っても神威装置が動いているのだ。
どう考えても、真理を留守番させる方が、連れて行くより、都合が良い。
アンデッドにとって威力使徒の仮想聖釘は致命的な意味を持つ。
そこについて講義はしないが、状況が見えてこない分だけ水月は珍しく慎重になっていた。
虎の尾を踏む可能性もある。
場合によっては地雷かも知れず、場合によっては不燃爆弾かも知れなかった。
どちらにせよ真理に危機が潜在するのなら、
「まだしも留守番させた方がマシだ」
という水月の計算はまっこと正しい。
「とりあえず真理が暴れ出したら」
「殺せばいいんだよね?」
サックリ言ってのける椿。
「ああ」
遠慮もへったくれも無く肯定する水月。
「ついでに忍も戦力になってやってくれ」
「兄貴が言うならそうするけどよ……」
「何だ?」
「正直椿だけで十分な気もするな」
「ま、一つの保険だな」
うそぶく水月。
「私は?」
これはラーラ。
「まぁ観念して死ね」
「むぅ」
呻くラーラだったが、
「聞くが勝てるか?」
と水月に言われれば肩を落とすしかない。
魔術の腕自体は成長期と合わせて日々進化しているが、そもそものスペックがラーラと真理では段違いだ。
かたや一般人。
かたやアンデッド。
双方魔術は使えるが、アンデッドに魔力の入力は必要ない。
身体能力も肉体のリミッターを外せるアンデッドに分が有る。
要するに肉体的にも魔術的にもラーラは真理に及ばないのである。
仮に真理がアンデッドとして暴れればラーラには手の施しようがない。
無論あくまで忍や椿という抑止力を計算から外せばの推論ではあるのだが。
「っつーわけで」
真理の頭を撫でる水月。
「いい子にしていろ」
「あう」
紅潮する真理だった。
借りてきたニャンコのように大人しくなる。
「にゃは~」
それだけでも嬉しいらしい。
愚鈍ではないため水月としても心理は掴めているが。
「で、何処に行くんです先輩?」
ラーラが尋ねると、
「ちょっと裏街に」
水月は嘆息して答えた。
厄介事。
水月の嫌うことの一つだ。
が、今回ばかりは動かざるを得ない。
ただでさえイクスカレッジの現状は後手後手だ。
こうなるからこそ椿をフェスに呼んだのだし、手がかりがあるのなら覚悟の一端として手に入れるのは必須であった。




