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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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アンデッド06

「だーかーら、すまんって。やりすぎたのは謝る」


『謝る事態ではないぞ。立派な公共物破損だ役君』


「だからケイオスに最初に電話したんだろうが」


『私はお前の尻拭いか』


「だからそれを謝ってんだろうが」


『……ふむん』


「それに向こうはナイフを持ち出してきたんだぞ。どう考えても被害者は俺たちの方じゃないか」


『それについては見ていた衆人環視から聞いている。絡んできたのはチンピラの一行らしいな』


「だろ? 俺と真理は何の罪も無いっちゃ」


『しかし魔術まで使って大人げないとは思わんのか』


「ここはイクスカレッジだぜ。魔術使って何が悪い?」


『……まぁいい。後はこっちで処理しておく』


「お願いしまーす」


 そう言ってプツッと通話を切る水月。


 真理がおずおずと尋ねた。


「あの、それでどうなったのでしょう?」


「あん? 大丈夫。ケイオスがうまくやってくれるってさ」


「そうですか」


 ホッとした様子でそう言う真理。


 と、


「カルボナーラとペペロンチーノとマルゲリータです。注文は以上でよろしかったでしょうか?」


 カルボナーラとペペロンチーノとマルゲリータを持ってきた店員がそう尋ねた。


 水月が無言で首肯すると、


「ではごゆっくり」


 とお決まりの文句を言って店員は去っていった。


 ここはイクスカレッジにあるショッピングモールのパスタ専門店。


 ナポリのようなどこか奔放で人懐っこい雰囲気が店内に漂っている。


 そんな中で、水月はペペロンチーノを、真理はカルボナーラを、それぞれ食べ始める。


 真理がカルボナーラをくるくるとフォークに絡めながら水月に聞いてくる。


「あの、水月はここによく来るんですか?」


「いや、初めて入った」


「そうですか……」


「でもまぁイタリア料理ってのはわりかし気に入ってはいるんだ。トマトとオリーブオイルに目を付けたイタリア人ってのはいい観察力を持っていると思わんか?」


「変なところで尊敬するんですね」


 心底おかしそうにフフと笑う真理。


「しかし……」


 水月がパスタをフォークに絡めながら言う。


「アンデッドも飯を食うんだな」


「別に食べる必要もないんですけど……一応私にも人間だったころの習慣がありますから」


「なるほどね」


 納得してパスタを食す水月。


「不死身ってのはどんな気分だ?」


「まだ実感はわきませんね。昨日アンデッドになったばっかりですから」


「俺の中のアンデッドってのは見境なく人を襲っては捕食するイメージなんだが」


「ひどいです」


「なんだが……お前をみてると毒気が抜かれる」


「それ、けなしてるんですか?」


「褒めてんだよ」


「微妙です」


「まぁ喜ばそうと思って言ってるわけじゃないしな」


 マルゲリータをピザカッターで切りながら平然と言う。


「もしかしてカルボナーラより人間の方が美味そうに見えてるとか?」


「そんなわけないじゃないですか」


「…………」


「既にしてオルフィレウスエンジンによって不死身を約束されているアンデッドは食事を必要としないんですから」


「まぁ……な……」


「何か知ってるんですか? アンデッドのこと……」


「まぁ元ビレッジワンに知り合いがいてな……」


「ビレッジワンに知り合いが?」


「元だ、元。そいつは既にアンデッドじゃなくなっているから」


「ふーん……」


「…………」


「ところで、ビレッジワンって何です? 私の親にあたるヴァンパイアがその分類だとか言ってましたけど」


「会議室でも言ったが……第五魔王ヘレイド=メドウスが創った始まりの百体のアンデッドのことだ。現存するアンデッドは、ビレッジワンと、ビレッジワンによって生み変えられた元人間のアンデッドしかいない。そのメドウスが創った最初の百体を指してビレッジワンと呼んでいる」


「最初の百体のアンデッド……」


「御家の都合上何体かと会ったことがあるがな。正真正銘の化け物だ。正直本気を出さんと勝てる気がしない」


「本気を出せば勝てるんですか?」


「タイプにもよるな。お前の親にあたるヴァンパイアなんかはまだやりやすい方だ。六十番台とかになると正直諸手をあげて降参って感じだし」


「はあ~」


 想像もつかないとばかりに吐息をつく真理。


「ていうか真理、お前もイクスカレッジの生徒ならアンデッドのこととか噂には聞いてないのか?」


「いや、その、私……コミューンに入るのが苦手で……そういう風聞とかはちょっと……」


「へ~、そんなに可愛いのにな」


「色々面倒があるんですよ。男に媚び売ってんじゃねーよ! とか言われたり。売ったつもりはないんですけどねぇ」


「ネットアイドルやってながら何言ってんだ此奴……」


「う、それは、だって……ネットならちゃんと自分が出せるっていうか……。それに日本のプロダクションからオファーも来たんですから……」


「マジで!」


「マジです。といっても心臓の病でアイドル打ち切るって言っちゃってご破算になりましたけど」


「もったいない」


「しょうがないじゃないですか。まさかこんな形で問題が解決するなんて思ってもみませんでしたもの」


「たまたまバチカンにいたヴァンパイアがお前のネット活動を見てなけりゃそのままお陀仏だったわけだ……」


「本人にとっては冗談ごとじゃなかったんですけどね」


 カルボナーラを食べながら真理。


「人生万事塞翁が馬ってな。ちょっとカルボナーラくれ」


 そう言って真理のカルボナーラの皿に水月はフォークをつっこむ。


「含蓄のある言葉です……って何するんですか!」


「いいだろ? ケチケチすんな」


「いや、でも、私の食べかけ……!」


「そんな細かいこと気にすんのか?」


 疑問形で聞きはしながらも既にカルボナーラをフォークで巻き取ると水月はあぐりと一口に食べた。


「あーっ! では私も水月のペペロンチーノもらいます!」


「どうぞどうぞ」


 平然と差し出す水月。


「……なんだか負けた心地です」


「気にしすぎじゃね?」


 マルゲリータを食べながら水月はそう言うのだった。

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