祭りの気配10
首に木刀の切っ先を突きつけられる。
「参りました」
忍は降参した。
「ふ」
と吐息をつく椿。
水月の勧めで椿が忍の相手をしていたのだ。
結果として忍には良い勉強になった。
こと理に於いては水月さえ越す巧者だ。
単純な物理法則に限定すれば忍が椿に勝てる道理はない。
まして肉体の強度は……突き詰めるとどうしても男を利する。
忍は少年めいてはいても女子。
椿は女性めいてはいても男子。
生まれを呪うことは無益ではあるが、先天性の違いもまたある。
「はふ」
大の字になって地面に寝転ぶ忍。
負けたことは当然悔しいが、それ以上に椿への尊敬が勝った。
これはある種の道を究めるに於いて有益な才能だが、ごく自然と忍は備えている。
「強いんだな椿は」
「水月ほどじゃないけどね」
椿も謙遜する。
「魔術を使えば忍が勝つぞ」
口を挟んだのは水月。
「そうなのかい?」
水月を見やって、それから忍を見やって椿。
「どうなんだろ?」
忍に自覚は無いらしい。
「ま、場合にもよるがな」
とは水月のはぐらかし。
じゃんけんのようなモノだ。
あらゆる事象を殺せる強制終了ではあるが、あくまでそれは化学反応の停止でしかない。
質量兵器には弱いという側面も持つ。
そして魔術とは言えブレンドブレードはその質量兵器とイコールで結べる。
特に海を断つ剣……大和との相性は最悪だろう。
回避できる大きさでもなく人体が受け止めることの出来る威力でもない。
それならそれで椿の方もやり様はあるだろうが、数値的には忍有利と水月は思っている。
果たして忍と椿が真剣に殺し合う未来が想像出来ないため、実践シミュレーションは行えないのだが。
気づけば時間は日没になっていた。
季節的にどんどん日中が短くなっていく。
日本では、
「粋」
というものだ。
「じゃ、今日はここまでだな」
水月がホケッと言った。
「夕餉はどうしましょう?」
「天ぷらを食いに行こう。俺がもつ」
外食と言うことだ。
そゆことになった。
イクスカレッジの北から南へモノレール。
繁華街で五人はぶらつく。
「そういえば研究室に顔を出していませんね」
真理が苦笑した。
「あ」
とラーラ。
「別にいいだろ」
この厚顔は水月にしか有り得ない。
「勉強と言う意味では今日の方がよほどだけどな!」
忍はそんな感想。
「なんか物騒な暴力集団だね」
椿は苦笑い。
そしてモールの食堂の一つには居る。
天ぷら専門の食堂だ。
油で揚げるのは当然だがフライとはまた違う味で客足もそこそこ。
肉だけではなく海鮮類から野菜まで揚げるため色々とイクスカレッジ生には物珍しいらしい。
水月たちは、
「勝手知ったる」
と言った感じだが。
そんなこんなで席について注文。
受けてから揚げるため多少の時間はかかるが、特に急ぎでもないため痛痒はしない。
水月は酒で無聊を慰めていた。
「水月は飲めるのかい?」
「仙人の家系だからな」
詩と花と酒を愛する水月であった。
「酒が米内か、米内が酒か」
そんな名言もある。
是非見習いたい水月であった。
「椿も飲むか?」
「元服は済んでるから飲めるけどね……」
「熱燗追加」
店員に注文する。
そして二人で酒盛りが始まる。
「ていうかそもそも地に足着けるのは京八流じゃないからな」
「そうなのかい?」
「山の木々を蹴って空間的に移動する場所があって初めて真価を発揮する天狗の剣法です故……」
水月は酒を飲む。
天ぷらぷらぷら。
揚げられた天ぷらが運ばれて、全員がサクサクと食べる。
その合間に水月と椿は酒を飲む。
「ま、古流剣術だからその辺はしょうがないんだが」
「護法魔王尊の年齢は神智学的には途方もないしねぇ」
「そういうそっちは鬼切りの家系だろう」
「まぁそうだけど」
「歴史的には五十歩百歩じゃないか?」
「否定はしない」
「まして北斗星君の祝福があれば幾らでも戦果を挙げられるだろ」
「強制終了ね」
クイと飲む。




