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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
RE:ラグナロック ~人々の黄昏~
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祭りの気配03


 水月と真理は二人揃って日本人向けの店で買い物をし、帰路につく。


 今日の夕餉は雑炊である。


 日に日に涼しくなっていく季節。


 日が沈めば温かい物を欲するのもまた然り。


 もはや真理はお母さんと云った具合だ。


 そんなこんなで宿舎に戻ると一人の女性らしき人物が宿舎の前に立っていた。


 黒髪セミロング。


 女性用の着物。


 胸は無くスラリとした体型だがコレには理由がある。


 腰には日本刀を差しており、その刀を水月は知っていた。


「もう着いたか」


 水月は着物の人物に声をかけた。


「あは」


 着物の人物は水月を視認して笑った。


「……っ」


 対する真理が青ざめる。


 一応記憶にはあるらしい。


「そちらも久しぶり」


 秋の中頃の季節。


 半年前に猛威を振るった存在が現れている。


 真理はその犠牲の一人となった。


「渡辺……椿……!」


 渡辺椿わたなべのつばき


 女性の着物を着ており尚中性的な顔立ちであるが故に女性に見られるが、性別的には男である。


 別段日本の魔術事情では珍しくもない。


 半年前にイクスカレッジで辻斬りを行ない、


「切り裂きジャックの再来」


 と謳われた生粋の殺人鬼。


 もっとも水月の言葉によって活動を自粛し今に至るが、その連続殺人鬼がまた顔を出したとすれば殺された真理としても戦慄を覚えずにはいられない。


「もう少し時間がかかると思ってたんだがな」


 水月は禍根を引きずってはいないらしい。


 こう云うときには有利に働く無礼さだ。


「まぁ役のお誘いならね」


 ニコッと愛らしく笑う椿。


「どういうことですか?」


 真理が恐る恐ると云った様子で水月に尋ねる。


「お祭りがあるから見学に来いって言っただけだが?」


 嘘はついていない。


 全てを話しても……またいないが。


「大丈夫なんですか?」


「知らんよ」


 そこは水月の管轄ではないらしい。


 無責任は水月にとり酸素である。


「で、実際どうなんだ?」


 尋ねると、


「あれから一人も殺してないよ」


 酷く道徳的なことを椿は口にする。


 一応水月の助言は守っているらしい。


「…………」


 安堵の吐息をつく真理。


「もしかして椿も……」


「ああ、うちに泊まる」


「ホテルは?」


「面倒だろ」


 というより空いていない。


 スポンサーの調整でいっぱいいっぱいである。


 国連の使者と教会協会の威力使徒で埋まっているのだ。


 そのため、


「元殺人鬼と同居」


 という爆弾を抱えることになるのだが、


「それがどうした」


 という無敵の呪文が真理の口を閉ざした。


 ほとんど力業だ。


 是非もなし。


「とりあえず待たせて悪かったな。入ろうぜ」


 水月が解錠して宿舎の中に案内する。


 魔術の訓練に出かけたラーラと忍はまだ帰っていないらしい。


「お邪魔するよ」


 そう云って椿は歓迎を受け入れた。


 それから水月と椿でコタツ机を囲み真理の淹れた紅茶を飲む。


 真理はキッチンで五人分の米を洗っていた。


 一人食い扶持は増えたが今日の夕餉は雑炊だ。


 誤差の範囲である。


 水月はダラダラと茶を飲む。


 椿もそれに倣う。


 そうやっていると、


「真理と同居してるの?」


 椿が問うた。


「まぁな」


 つっけんどんに水月が言う。


「アンデッドなのはお前も知るところだろ?」


「まぁそうだけど」


 ホケッと返す椿。


 女顔がポヤッとした表情を映す。


 基本的に剣呑と安穏が両立しているのは椿ならではだろう。


「俺が監視役。ストッピングパワーだな」


「襲われないの?」


「まぁその辺の調整はされているしな」


 肩をすくめる。


 紅茶を飲んで言う。


「ま、別段襲われても返り討ちに出来るから気楽なもんですな」


 にゃ~と笑う水月だった。


「まぁ役のならそうだろうね」


「水月」


「ん?」


「水月って呼べ。俺はお前を椿と呼ぶ」


「み……水月……?」


 頬を赤らめながら辿々しく椿は水月の名を呼ぶ。


「ああ、椿」


 水月の方は厚顔だ。


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