禁じられた御手10
最後の日本観光は千葉県。
フツの神を信仰する土地だ。
で、一応のところ世話をした手前(と称して)、
「馬鹿を連れて帰りました」
水月は奴隷用の首輪を忍の首につけて、リードを引っ張り、忍を布都本家に引き渡した。
「おお。これは役の! 不貞の馬鹿息子が迷惑をかけた」
「中々刺激的な毎日でしたな」
はっはっは。
軽く笑う。
実際に無数の鬼と藤原千方の四鬼に襲われたため刺激的で済ませて良いのかは議論の余地があるが水月自身は気にしていなかった。
一応アンネマリーは浅間赫夜に保護して貰い、富士の頂上から繋がる月の屋敷で食客に戻った。
姫路も目的は達したため鬼ヶ島に戻っている。
それからようやっと千葉の布都本家を訪ね、魔術旧家として顔見知り程度には互いの距離があるため家元にもすんなり会える水月。
修験道とて山岳国家である日本の山々を信仰するためどうしても神道は避けられない運命にある。
元より小角が神道の神の一柱である一言主と一緒に居るだけで察せられるだろう。
「うむ。色々すまなかった。愚息を許してやってくれ」
「いえいえ。おかげさまな面もあります故」
「少しは頭を冷やしたか馬鹿者?」
「それはこちらの台詞です」
完全ににこやかな表情で間合いに入った布都の家元……その鳩尾に拳を埋める。
魔力の入力は既に行なっている。
魔力の演算は寸勁。
名を金波羅華と呼ばれる水月の魔術だ。
無論加減はしている。
本気で打てば殺すどころか死体すら残らず挽肉になる。
「が……!」
白眼で呻いた後、忍の父親は意識を手放した。
それからテキパキと水月と真理と忍は準備を開始する。
ちなみに首輪は演出であるため、既に外してあった。
場所は忍に与えられた十二畳の部屋。
ワイドテレビが備えられておりBD再生機が設置されている。
真理が鞄から『ブレンドブレードブレイカー』のBDボックスを取り出す。
その間に水月が忍の父を座椅子に設置し、忍がガムテープで父親の胴体と座椅子の背もたれをまとめて縛り付けて固定する。
「いけるかな?」
「知らん」
少なくとも失敗したところで水月の懐は痛まない。
元々小さな懐であるから期待する方がどうかしているが。
しばし時間が経ち、
「ううん……」
と忍の父が目を覚ます。
「ども。さきほどはご無礼を」
謝辞する水月に、
「貴様!」
怒号しようとして、
「っ?」
自身の環境を顧みる。
テレビの前の座椅子に固定されて座らされている。
何の意味が?
そんな言葉が表情に浮かんでいた。
「とりあえず親子の仲を修復しようと思いましてね」
水月は淡々と皮肉を吐く。
「愚父め! お前が馬鹿にしたブレブレが如何に崇高な代物か脳に刻んでやる!」
「どういうことだ!」
まぁ当然神道一筋の古代人には理解の及ばない範囲だろう。
「案ずるより産むが易しだな」
「百聞は一見にしかず……ですね」
水月と真理がそう言った。
「だからどういうことだ!」
「まぁ一種の美的観賞会ですよ」
淡々と言って水月はリモコンを弄る。
既に『ブレンドブレードブレイカー』の第一巻BDはセットされている。
ウィーンとディスクが再生機に飲み込まれてワイドテレビがデータを映像にする。
「というわけで」
水月は言った。
「ブレンドブレードブレイカー……ブレブレ観賞会を始めます」
「まさか……」
覚ったらしい。
「とりあえずブレブレの一期および二期を視聴して貰います。計二十四話。半日もあれば見終えられますよ」
「馬鹿な。そんなものに私がほだされるとでも……」
「そう食わず嫌いせずに食べてみてください。食べたことのない料理の味について議論してもしょうがないでしょう」
にっこり笑う水月は布都家元にとって悪魔のソレに見えた。
実際に忍はともあれ水月にとっては嫌がらせの範疇を出ていないため、あながち間違っているとも言い難い。
布教活動も本音ではあるが、他人に嫌がらせしたいのも本音。
「ちなみに眠ったら強制的に痛覚に訴える形で起こします。目を閉じたり視線を逸らして観賞を拒否した場合はそれだけロスタイムが加算されると思ってください。一応目覚まし用のダークミントガムと活力補給用の栄養ドリンクを用意しております。たかだか半日程度なのでトイレは気合いで我慢なさってください。こちらに非協力的でロスタイムが加算した場合、トイレへの距離も伸びることになります。漏らしたくなければ興味を持って視聴することをオススメしますよ」
丁寧な脅迫だった。
「…………」
青ざめる家元こそ良い面の皮だろう。




