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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
生死とは何ぞやと鬼の問う
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アンデッド02

 エキストラ・リベラル・アーツ・カレッジ。


 当カレッジを知る人間には、イクスカレッジという略称が浸透している。


 カレッジといっても言葉通りの面積ではなく、一つの都市としての規模を誇る。


 そして何より挙げるべき特徴は「魔法魔術を専門とする研究および教育のための機関」という馬鹿げた設計思想によって成り立っていることであろう。


 北大西洋のほぼ中央に建設された海上都市として機能し、国際化領域に属している。


(……絶海の隔離施設にして核実験場だぁな、ようするに)


 と、役水月はみもふたもなく思うのだった。


 そんなイクスカレッジの中央、特に研究棟が立ち並ぶ場所に七十五階建てのビルが建っている。


 そしてそのビルの四方にはそのビルを囲むように五十階建てのビルが四つ並んでいる。


 この都合五つのビルはイクスカレッジのどの場所からでも観測ができ、セントラルタワーと呼ばれイクスカレッジの政を一手に引き受けていた。


 その内の七十五階建ての通称中央棟の正面玄関をくぐる水月。


 アイリス認証によってセキュリティをパスすると受付へと歩を進める。


 受付にはやけに化粧の濃い女性が五人ほどいて、その内の一人に水月は話しかける。


「あー、役水月だが……」


「はい。役様ですね。七十三階で会議の予定が入っております」


 はきはきと答える受付嬢の言葉に疑問を持つ水月。


(会議だと?)


 訝しむが受付嬢に聞いても仕方ないかと諦めて、七つもあるエレベーターの扉の一つまで寄ると上へ行くためのボタンを押す。


 ゆっくりと下降するエレベーターを扉の上部で光る数字で追いかけながら、これなら魔術で上った方が早いのではないか、などと思う水月。


 そうこう思っている間にもエレベーターは降りてきて、そして水月を七十三階までの高度へと運ぶ。


 そして七十三階。


 エレベーターの扉が開くと、そこはもう会議室だった。


 通路も何も挟まずエレベーターは直接会議室に繋がっていた。


 そして周りはガラス張りの壁。


 それは俯瞰というにも高すぎる壮観だったが、既にして水月には勝手知ったる風景だった。


「…………」


 無言で会議室を見渡す。


 と、


「よ、役君」


 会議室の円卓の席の一つに座っているケイオスと目が合う。


 手を振るケイオスに手を振り返しながらさらに会議室を見渡す。


 知ってる顔と知らない顔を半分ずつほど見てから、シンメトリカルツイントライアングルの一人である老人を見つけて、彼が会議に参加していることに少し驚き、それから、


「……っ!」


「あ、昨夜の坊やだ。こんにちは~」


 愛嬌良く振る舞う昨夜の事件の主犯たるヴァンパイアを見つけてさらに驚愕する水月。


 赤みがかったロングヘアーを揺らしながらひょこひょこと手を振るヴァンパイアに手を振り返しながら水月は困惑する。


 何故敵がここに、と驚きながらも表面上冷静に最後の一人を観察する。


 その人物を水月は見たことがあった。


 ただ知り合いでもなければ顔見知りでもなかった。


 水月が一方的の彼女を知っているというだけだ。


 一瞬、それが誰だかわからなくなる水月。


 その後、まさか、と思い、疑いが確信に変わる。


 彼女は茶髪に染めたショートヘアに質素なリボンをつけた日本美人だった。


 小高い鼻に桜色の唇に肉付きのいいボディライン。


 年齢は水月と同じくらいであろう。


 水月は今度こそ驚愕をあらわにして彼女を指差した。


「まさか……神乃マリ!」


 神乃マリと呼ばれた少女は水月の方を見ると困ったように笑って頭を下げた。


 反応を返すように頭を下げる水月。


 しかして依然水月は混乱していた。


 ただでさえヴァンパイアを交えての会議であるのに、そこに心臓の病に侵されたはずのネットアイドル神乃マリまでいるのだ。


 もはや何が何だかわからなくなる水月。


 シンメトリカルツイントライアングルの老人が言う。


「役先生。どうぞ席に」


 電話越しの声よりははっきりと、そう言う老人。


 言われるままに円卓の最後に空いた一つの席に座る水月。


 隣の席のケイオスがニヤリと笑う。


「遅かったじゃないか。何をしていた?」


「寝てた」


 他に言い様もなく水月は答える。


「それで……?」


 今度は水月が全体に問う。


「この脈絡のない混成一個分隊は何だ?」


「「「…………」」」


 沈黙が降りた。


 誰も答えない……と水月が思った矢先、ヴァンパイアがケラケラと笑った。


「脈絡なくないよ~。だって要するに私たちの扱いに困っているってだけであってさ」


「…………」


 今度は水月が黙る。


 と、


「申し訳ないが……」


 水月から見て見知らぬ人間の一人……クラシックのスーツを着た青年が問う。


 青年の目は水月を捉えていた。


 青年が言葉を続ける。


「申し訳ないがアンデッドとはなんだ。そこな彼女は……」


 とヴァンパイアを手で示して、


「ヴァンパイアとは本当か?」


 そう問う。


 水月は円卓に肘をつくと、


「おい、誰かあいつをつまみ出せ」


 あっさりとそう言った。


 無論、あいつとは青年の事だ。


「なっ!」


 驚愕と憤怒を三対一の割合で表情に表わす青年。


「貴様、私が誰だかわかっているのか……!」


「知るかよ」


 睨みつける青年に、さらりと流す水月。


「まぁまぁまぁバシール議員、落ち着いて。役君も本気で言ってるわけではない」


 ケイオスが仲裁に入った。


 ケイオスは水月の頭を掴んで自分の方へと引き寄せるとヒソヒソと水月に呟く。


「(勘弁しろ役君。相手は国連のお偉いさんなんだ。機嫌を損ねるわけにはいかん)」


「(しかしそれだと話が進まんじゃないか)」


「(そこはほれ、役君が説明してくれるだろう)」


「(まさかそのために呼んだのか?)」


「(半分はな)」


 ちっ、と舌打ちをすると水月は一つため息をつき、それから青年……バシール議員に向かって言った。


「どーしようもないバシール議員様々のために解説してやるが……」


「何だと……!」


 バシール議員の憤怒は無視して、言葉を続ける水月。


「おいあんた、オルフィレウスエンジンはわかるか?」


「…………」


 無言で首を振るバシール議員。


「じゃあチャーマーズアクチュエータは?」


「…………」


 無言で首を振るバシール議員。


「そっからか……」


 はあ、とため息をつく水月。


 ちらりとヴァンパイアの方を見るとヴァンパイアは何が楽しいのか水月を見てニヤニヤしていた。

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