四鬼襲来01
とりあえず下山用の道を踏破して富士山を下りる。
郵便で鞍馬寺宛てに月花酒を送る。
「何故」
と問うたのは真理。
「酒瓶持ったまま鬼に対処するのが面倒くさい」
それが水月の意見だった。
全く以てその通りだったので真理もそれ以上は云わなかった。
そして、
「名古屋でひつまぶし食べよー!」
ポンコツのアンネがそんな提案。
「太るぞ」
「反量子でやせるから大丈夫ー」
「お前は使えないだろうが」
反論と言うには気力が足りてなかったが。
「急ぐ旅ではないでしょう」
と真理がフォロー。
「俺は兄貴の行くところに行くぜ!」
お前が一番厄介なんだがな。
水月はそんなことを思う。
基本的に真理とポンコツは足手纏いだが、そもそもにして水月たちが鬼に追われているのは忍が全面的な原因だ。
かと言って、
「はいさよなら」
も無責任であるため漸う水月は連れているのだが。
鉄道を伝って名古屋に降りる。
とりあえず今日のホテルを探した後、四人は揃って近場の鰻屋へ。
ひつまぶしを食べる。
「んじゃ次は味噌カツー!」
アンネの我が儘は留まることを知らない。
とはいえ監督責任が発生するため、
「勝手にしろ」
とも言えない。
場合によっては人類遺産級の禁術師を失うことになりかねない。
状況が泥沼なのは理解しているが、どうやら水月はそんな星の下に生まれたのだろう。
「アンネはよく食べますね」
と真理。
穏やかな笑みを浮かべている。
「兄貴! 俺も!」
忍も中々胃拡張であった。
「へぇへ」
と水月が言った瞬間、
「――――」
フツリと道行く大勢の人が消え失せた。
いや、むしろ消えたのは水月たちの方だろう。
「結界……!」
呻いたのは真理。
水月の感覚が鋭敏になる。
轟と音がした瞬間、
「――千引之岩――」
と呟いた。
遅れて本命がやってくる。
風だ。
暴風。
水月たちは魔術障壁で無事だったが、風のうねりはあまりにも暴力的で水月たちの背後のビルがまとめて吹っ飛んでいく。
台風ですら問題ない近代建築構造をあっさりと吹っ飛ばす風圧に唖然としたのは忍を除く三人だった。
もっとも水月に驚く資格は無い。
ビルを丸ごと爆砕できる時点で、此度の風とは五十歩百歩である。
「ほう。防ぐか」
理性的な声が聞こえた。
そちらを見やる。
鬼がいた。
ただし先日までの鬼とは一線を画している。
煌びやかな着物を纏い、美貌をたたえた鬼だ。
上位のソレであるのは等しく水月たちの共有する認識。
そしてそれと対比する様に雑魚の鬼が大量に美貌の鬼の背後で軍団を造っていた。
「魔術師?」
美貌の鬼が問う。
「そちらの布都を渡してくだされば安全を保証しますが?」
「問答無用で仕掛けてきておいて問答する気か……」
さすがに呆れざるを得ない。
厚顔の度合いで言えば人に言えた話でも無いが。
「神道のお坊ちゃんがわざわざネギを持って現れたのだ。討ち滅ぼすのも鬼という者でしょう。違いますか?」
「鬼の定義にもよるが……まぁそうだろうとは言っておく」
「では」
「断る」
水月は断じた。
「兄貴!」
忍は嬉しそうだ。
「まさか先の一撃を防いでいい気になっていますか?」
「それ以前の問題だ」
「?」
「忍を敵に回すよりお前を敵に回した方が面倒が無いってだけだ」
「ほう」
スッと鬼の目が細くなる。
水月としては挑発のつもりでさえない事実確認だが、その不貞不貞しさだけでも鬼の感情を逆撫でするのだ。
「知ったこっちゃない」
それもまた事実だが。
同時に、
「ゲギャァ!」
と鬼の集団が襲ってくる。
美貌の鬼もまた左手を突き出して忍に狙いをつける。
「兄貴」
「何だ?」
「障壁張って下がっててくれ」
「手伝うぞ?」
「兄貴がいれば百人力だが……この際必要ないぜ!」
「ならご自由に」
水月はアンネを抱えて真理と共に下がる。




