誰にも優しく愛に生きる人09
「ふむ……」
と思案。
「屋敷に顔を出したって事は……」
「まぁ一応確認が一つだな」
「他にもあるの?」
「月花酒を譲ってくれ」
「一億」
「口座から引き落としておけ」
そういうことになった。
とりあえず木花開耶姫の酒造技術の結晶である月花酒を買って、土産用に包装させると玄関口に待機させる。
「土産の一つでも」
ということで買ったが、
「つまりは御機嫌取りだ」
が水月の本音である。
「アンネはどうしてる?」
「しずごころなく過ごしているよ?」
「何かしらの不満は云わないのか?」
「いい子だよ」
「魔法メジャーは……まぁいいか」
少なくとも此処では脅威ではない。
「そういえば小角様がいたくアンネマリー様を気にかけてらっしゃいましたが」
「爺がねぇ……?」
気持ちはわからないでもない。
冗談抜きで、
「世界を滅ぼす力を持つ」
のがカイザーガットマンだ。
そして近代魔術の祖であるナツァカが提唱した仮想存在――、
「反魔力」
の使い手でもある。
とりあえず世界で一番安全な場所として浅間一族に引き取って貰ったが、そうでもなければ葛城さくら同様に無形魔法遺産となる悲運の少女でもある。
真理と忍には何が何やら分からないことではあるが。
そして襖で閉じられた部屋の一つに入る。
そこには少女がいた。
ラーラや真理や赫夜を美少女美少女と言ってきたが、なおそれにも劣らぬ美少女だ。
白い髪に褐色の肌。
特徴的なのは外見だけでなく能力も、だ。
無形魔法遺産指定の魔法使い。
名をアンネマリー=カイザーガットマン。
着ている衣は和服で、しかも異人にしては馴染んでいた。
「水月ー!」
アンネは水月にハグした。
「久しぶりー!」
「だな」
水月は苦笑する。
白い瞳が慕情に揺れる。
基本的に功は浅間にあるのだが、水月を媒介としたのも事実ではある。
アンネが気に入るのも必然だ。
「会いに来てくれたのー?」
「まぁ色々あってな」
アンネマリー=カイザーガットマン。
その存在には少しの説明がいる。
先述したように無形魔法遺産の候補。
その実態は魔導師ナツァカによる仮想存在である反魔力の具現者。
量子燃料仮説に於いて『反量子』と呼ばれる負の存在を入力することの出来る仮説上にしか存在し得なかった魔法の使い手である。
反量子。
この世の最小単位である量子。
その量子と対を為す存在だ。
量子燃料仮説によれば魔術師は量子を『無』から調達して演算することで魔術という現象を起こす。
対する反量子は量子と対を為す存在のため調達した瞬間に重なる存在と対消滅を起こし『無』へと回帰させる。
例外はない。
質量やエネルギーだけではない。
空間……あるいは時間……それらも量という単位である以上、反量子と対消滅して消え失せるのだ。
水月の、
「千引之岩」
ですら防ぎ得ぬ圧倒的攻撃力。
反物質による対消滅ともまた違う。
あちらはあくまで質量をエネルギーに変えるだけだ。
が、反量子に選り好みはない。
質量も仕事量も空間量も時間量も……干渉された瞬間に何の手応えもなく『消え去る』のだ。
量子燃料仮説の根拠となる魔法。
であるため魔法メジャーが身柄を欲するが、浅間の庇護下にあるため手を出せないのが現状だ。
もっとも、
「ポンコツの方か」
と水月は言った。
「ポンコツって何さー!」
とアンネが抗弁する。
「マリーはどうしてる?」
「知らないよー」
「だろうな」
この会話は正当だ。
アンネ。
マリー。
二人合わせてアンネマリー=カイザーガットマンである。
アンネはポンコツ。
マリーは明晰で皮肉屋。
所謂一つの解離性同一性障害。
古い名を用いるならば多重人格障害と呼ばれるソレだ。
反量子を扱えるのはマリーの方で、アンネは先述したがポンコツである。
「マリーの苦労が手に取れる」
そんな水月の感想である。




