誰にも優しく愛に生きる人06
新幹線に乗って富士山へ。
と言っても最終的にはバスを使うのだが。
基本的に富士山の山登りは五合目から。
そんなわけで五合目まではバスで難なく辿り着いた。
その後、とりあえず土産屋で物色する忍。
六根清浄と書かれた登山杖を手に、
「いざ!」
と忍。
そんなこんなで登山開始。
別にガイドもついていないため完全に趣味のソレだ。
しかも水月も真理も忍も登山の装備をしていない。
完全に夏の私服である。
その辺の街中を歩くなら問題ないが、富士山の登山としては落第点。
三人ともに、
「知らん」
といった感想だが。
「もしかして浅間一族の皆様はこうやって富士山を登っているんですか?」
「まぁそうだな」
空間転移が使えれば話は早いのだが。
「でも頂上には人もいますし店もありますよね?」
「だいじょーぶ」
水月はサクサク富士山を登りながら言った。
「案外気にされないから」
そう云う問題でもなかろうが。
「浅間一族の潜む異世界……」
真理は思案する。
「どういう所です?」
「月」
「月?」
「月だ」
真理の疑問に念を押す水月。
「ま、あくまで風景が……ではあるが」
「中々壮観だぜぃ!」
忍も同調する。
「前にも言ったろ。富士山は月と花を象徴する霊山だと」
「でしたね」
「ちなみに俺の魔術である『木花開耶』のモデルとなった木花開耶姫の霊域でもある」
「そうでした」
クスッと真理は笑う。
「霊域は良いんだが……」
忍が嘆息する。
こういう超直感は魔術師特有のモノだ。
三人は結界に取り込まれた。
「こう云った輩も元気になるのはな」
「しょうがないだろうな」
忍の愚痴に水月が平然と答える。
お台場では一鬼。
築地では五鬼。
そして富士山では、
「ソレでは足りぬ」
とばかりに二十体の鬼が顕現した。
三人を囲むように。
「とりあえず東は任せた」
水月は西を向いて背中を忍に預ける。
「いいのかい兄貴?」
「むしろ全方位でお前のブレブレを振り回されたら洒落にならん」
それもまた事実だ。
「真理は?」
「殺しても死なんから大丈夫だ」
「不死身?」
「限定的だがな」
「じゃ。行きますか」
凄惨に忍が笑う。
「――御機嫌だぜ! 大和!――」
鋭利な三角柱の巨剣を具現化する。
それを掲げてブースターで加速。
結果として最速の振り切りを実現する。
刀身が鬼を圧搾して破壊し、山の側面にぶつかると同時に爆砕した。
対する忍の背では、
「――前鬼戦斧――」
こちらも、
「開いた口が塞がらない」
といった類の巨大な風の斬撃が鬼を襲う。
まるで草刈り機の要領だ。
サクサクと切り裂く水月と忍。
その間の真理は唖然としていた。
古典魔術師の化け物具合は知識としては知っていても、実際に見せられれば唖然とする。
鬼が弱いわけでは決して無い。
ただ、
「水月と忍が強すぎる……!」
そんな現実。
オルフィレウスエンジンを持ち、攻性魔術を習得した。
それ自体は褒められることだ。
少なくともイクスカレッジにとっては。
だが水月と忍の戦力はそんなレベルですら無い。
殆ど災害だ。
暴風や津波や地震と同じ。
圧倒的な流れで敵を押し流す。
水月の異常性を改めて確認する真理。
それが自身の矮小さとの比較なのだからどうしようもない。
その上で、なお水月が、
「化け物」
と呼ぶ連中がいるのだ。
「ヒエラルキーの上層がどういった物か?」
見失う丁度良い機会と言えただろう。
「おお!」
忍が大和を振るう。
その度に山の側面が爆砕され鬼が千切られていく。
鬼の平定は武者の使命。
自身が狙われるか否かについては頓着しない。
日本に混乱をもたらす者の根絶は神道系の魔術旧家の使命だ。
そうでこそ天津神による葦原中国の統治の正当性を持つのだから。




