日本の熱気06
電話に出る。
「先輩!」
「何だ?」
開幕から興奮した声が聞こえた。
ラーラである。
「何で日本に帰ってるんですか!」
「用事があるしな」
「真理とデートすることが用事ですか!」
「ああ、なるほど」
そこで水月は覚った。
真理の、
「嫌がらせです」
の言葉の意味を。
要するに自慢したのだ。
「水月と二人で夢の国でデート中ナウ」
的なことを。
焦ったラーラが地球の反対側から電話をかけてきた……ということだった。
「成り行きだ」
他に言い様がない。
「成り行きでデートするんですか?」
「茶番だがな」
サラリと言う水月に、
「…………」
真理がジト目になった。
気にする水月では当然無いが。
「うう~」
とラーラが唸る。
「何がそんなに残念よ?」
「一声かけてくれても良かったんじゃないですか?」
「知らん」
これまたサラリと。
「だいたい今のお前は忙しいだろ?」
「ぐ……」
痛いところを突かれた。
そんな呻き。
実際その通りだ。
ラーラは現在魔術の修練中で、なおかつ今は成長期。
イクスカレッジを離れるとどうしても人目が魔術の邪魔をする。
魔法検閲官仮説。
だからこそイクスカレッジは欧米を挟んだ海上都市として人目を避けているのだから。
「真理がサボっている分お前が一歩先を行くように頑張れ」
「帰ったらデートに付き合ってください」
「わぁったよ」
「約束ですよ!」
「口頭契約だがな」
どうしても茶々を入れずにはいられないらしい。
水月らしいが。
通話を終える。
「で? 弁明は?」
「乙女のお茶目です」
軽やかにウィンク。
「まぁお前がソレならいいんだが」
「本当にあっさりしてますね水月は」
「もう慣れたろ」
「諦観もありますけど」
「だろ?」
「でも乙女心とは別問題ですよ?」
「悪趣味め」
「一応自覚はしてるんですよね?」
「まぁな」
「なら」
「ま、十人十色だな」
「私が残念みたいじゃないですかぁ……」
「残念だろ」
水月は顔の造りは宜しい。
ただ性格が壊滅的だ。
無精。
皮肉屋。
壊滅的な人格に道徳を理解しない価値観。
「人は外見ではなく中身だ」
という人間にとっては盛大な嫌味だろう。
なにせ清々しいまでの堕落人間なのに異性同性問わず良くモテる。
水月は特に気にしていないが、たまに気疲れすることもあるのだった。
ラーラと真理については、
「しょうがない」
と割り切れるが、
「お慕いしております」
と近寄ってくる名も知らぬ少女との邂逅も一度や二度ではない。
一度たりとも首を縦に振った事は無かったが。
「とりあえず今日はここで過ごすとして……明日以降は?」
「明日は秋葉原です」
「何しに?」
「アルバイト」
「そんなことも言ってたな」
真理のアイドルデビューの件である。
「一体どういう結果になるのか?」
水月としても肩が重くなる。
すくなくとも強制検閲がある以上、真理がアイドルとして大成することはない。
これはもう業だ。
かと言ってソレをそのままプロダクションに伝えても鼻で笑われるだろう。
「ま、いいか」
食事を終える。
アトラクションで遊びたおす。
夢の国の思い出は情報端末に。
それを一々真理がラーラに自慢する物だから、
「はぁ」
内心辟易の水月ではあった。
これも業である。




