日本の熱気04
「あう」
ホテルに戻ると水月は土産といって買ったウィスキーの蓋を開けた。
「まだ飲むの?」
「二次会だ」
ホテル側にグラスを用意して貰って注ぐ。
「お前も飲むだろ?」
「いいんですか?」
怯えるような真理。
「少し付き合え」
「そう言うのなら」
そして二人でウィスキーを嗜む。
水月は自制を利かせて飲んでいたが、真理はパカパカ空けていた。
「お前は」
呆れる水月。
すぐに真理の裏の顔が出てくる。
「み~づ~き~?」
真っ赤になって水月に熱っぽい視線を送ってくる真理。
それを肴にウィスキーを嗜む水月だった。
「どした?」
「水月はゲイ?」
「んな不名誉な……」
「私を抱いていいんですよ?」
「風呂でも聞いたな」
「ていうか何が不満なんですかぁ」
グイとウィスキーを呷る。
「私だって可愛いでしょ?」
「ああ、十分に」
「でしょでしょ?」
うんうんと頷く真理。
「その上で!」
「その上で?」
「何が不満なの?」
「不満じゃねえよ」
「葛城先生を想ってるんですか?」
「然りだな」
「過去を想ってどうするんです」
「殺すぞ」
「不死身ですぅ」
「じゃあ試すか」
「冗談だよぉ。怒っちゃや」
愛猫が懐くようにすり寄ってくる真理だった。
「私だっておっぱい大きいし」
「評価基準にはならんな」
「揉みたくないの?」
「言ってしまえばな」
「淡泊!」
「知ってるさ」
ウィスキーをクイと飲む。
「チェイサーが欲しいな」
無くても困りはしないが。
「水月! 水月!」
「何でがしょ?」
「チューしよう」
「却下だ」
「いいじゃん」
「何がだ」
「色々と」
「本当に残念だな、お前は」
「水月が好きなの!」
「知ってるさ」
「愛人でいいから」
「どこの外道だ」
ツッコむ水月。
ちなみに別の意味で外道ではあるのだが。
「一回だけしよ?」
「却下」
「ちょっと。ちょっとだけだから!」
「お前くらい綺麗なら他にいい男が見繕えるぞ」
「水月がいいの~!」
「恐縮だ」
水月は悟っているため軽やかに躱してのけた。
「鬼! 悪魔!」
「アンデッドに言われてもな」
魔王の手先なら悪魔だろう。
「はぁ……」
真理は酒臭い息を吐く。
「あのまま水月と会わなければ良かったのに」
「まぁそこまで含めてアークの仕業だな」
結局そういうことだ。
絶望とて舞台に於いては一種のスパイスでしかない。
「世界は舞台だ」
とはシェイクスピアの言葉である。
「男女が役者」
とも言っている。
だからといって水月という男と真理という女に役者芝居は向いていない。
二人の間には隔絶たる価値観の相違が存在したが、
「あ~う~」
という他、真理にはなかった。
「お前はいい女だな」
「でしょ!」
「酒の肴に丁度いい」
「また水月はそう言うことを!」
「一緒に風呂に入ってやったろ?」
「その先を行きたいの!」
「ラーラに悪いしなぁ……」
「私にいい考えがある」
だいたいこの後の台詞はとんでもない。
「私もラーラも愛人にすれば良い」
「まぁそうなるよな」
論理的帰結だ。
反論の余地もない。
それでも、
「俺はさくらを想うよ」
そこだけは譲れない水月だった。
「あうぅ。水月の馬鹿!」
「十全に承知している」
反論はウィスキーと一緒の喉の奥に流しこんだ。




