日本の熱気01
「あじ~……」
日本の夏は蒸し暑い。
空港内はまだ冷房が効いていたが、外に出ればプロパガンダである温暖化を信じてしまいそうになるほどの高熱が水月を襲う。
東京の地に立つ水月であった。
これには少し説明がいる。
*
イクスカレッジでボーッとコーヒーを飲んでいると、
「水月」
と真理が呼んだ。
「トランスセットには付き合わんぞ」
牽制する水月。
「いえ、そうではなく」
否定。
「夏期休暇ですよね?」
「だな」
イクスカレッジは大学相応に休みを取られる。
特に夏休みは長期にわたって休みを取られるため、正直なところ水月たちが研究室に来ることに意味は無い。
では何故という疑問が湧くがコレは簡単でタダでコーヒーを飲めて電気代いらずのエアコンを使えるためだ。
別段節約するほど金銭に不足は無いが、宿舎にいてもやることが無いため真理の監視もかねて研究室に顔を出す。
真理は器用だった。
コンスタン教授のお願いを聞き講義の資料を速やかに作成する。
水月の分まで取りなすほどである。
助かっている水月はボーッとコーヒーを飲む。
「で、何よ?」
「一度日本に帰りませんか?」
「…………」
この沈黙は思案の結果だ。
「日本に戻る」
一応そのつもりではいた。
が、あくまで一人でのつもりだったのだ。
「一緒にか?」
「水月は私の監視役でしょう?」
「だな」
首肯。
「んで? 何ゆえだ?」
「ちょっとアルバイトでもしようかと」
「アルバイト?」
首を傾げざるをえない。
「東奥プロダクションから誘いを受けまして」
「プロダクションってーと……」
「タレントを扱う会社ですね」
「アイドルになるのか?」
水月は、
「まさか」
と思った。
基本的に真理はアンデッドである。
アンデッド。
文字通り……「死なない」のだ。
不老不死の一つの形だが、それ故に文明の表に出ることは苦慮される。
何せ、
「老いず死なず」
であるため、人類の記憶に残るような真似を検閲官仮説が許さない。
そう水月が言うと、
「ですからアルバイトです。ちょこっとだけアイドル業界に首を突っ込んでみたかったり」
「お前がいいなら構わんが」
そういうことになった。
*
結果、
「日本人の業だなコレは」
時間は戻って日本。
アンデッドである真理とストッピングパワーである水月。
二人の魔術師が祖国の地を踏んだ。
「ラーラには悪いことをしました」
真理は哀愁を漂わせる。
「いいだろ別に」
水月としては、
「フットワークは常に軽く」
が基本にある。
実際にイクスカレッジ外でのことで水月はラーラを関わらせると云うことを一切やっていない。
魔術師としての素質はあっても戦闘巧者としての素質はない。
自覚しているが大抵に於いて水月はトラブルメイカーだ。
水月に帰結する責任ではないが、何かとトラブルに巻き込まれるのは業である。
とても両手の指では数え切れない。
そして、
「今回はそうじゃない」
という保証も無い。
そうであるためラーラにはイクスカレッジで勉学に励んで貰うという方向で落ち着けたのだった。
「とりあえず」
と水月。
「先に真理の事情を片付けよう」
そう言う。
「水月の事情は後回しで良いんですか?」
真理が問うと、
「急ぎじゃないしな」
水月は肩をすくめる。
「多少の確認が必要なだけ」
水月の意識はその程度だ。
少し脚を伸ばす必要はあるが急ぐ必要はない。
であるためまずは真理の事情を片付けることにした。




