もしも源義経がエクスカリバーを握ったら09
が、相手も然る者。
全く隙を見せず、刀剣所持者として一瞬一瞬で水月を上回る。
金波羅華を使う暇も無かった。
「ちぃ……!」
「はぁ……!」
水月は剣を極めた。
京八流と呼ばれる剣技である。
剣は達人になればなるほど間合いの狭い剣を得手とする。
武は舞となり、舞は無に通ずる。
故に水月にとって無刀は京八流の究極だ。
手の甲で死者の剣撃を逸らして一発一発に致命傷を織り込む。
しかし相手もまた強し。
水月の連撃を躱してのける。
腐臭を放つ体で、なお不安を覚えさせない立ち回りだった。
「ウジが飛び散り包帯で身を固めた死者にしては技術が良すぎる」
それが水月の見解だ。
「何者だお前……」
水月は間合いを開けて聞いた。
「ふむ……」
唸った後、
「必要か?」
そう問い返してきた。
「特に殺す事に抵抗はないしお前に興味も無いが……」
嘆息。
「それでもお前の技術までもは否定できない」
「恐縮である」
本心から死者は言った。
こと、
武
という点において水月と死者は比類無き高みに居る。
コレは確かだ。
「しかして問うならば先に答えて貰わねばならないことがある」
「あ?」
水月は、
「わからない」
と言った。
二つの瞳だけで。
「きさんの武術は理解した」
それが死者の言葉。
「どうも」
と水月。
「何処で覚えた?」
死者は鋭い視線を送った。
「だいたい分かってるんじゃないか?」
水月はそう答えた。
「鞍馬山……」
「ご名答」
パチパチと拍手を送る水月。
「つまりお前は京八流を知っていると云うことになるな」
そんな水月の言に、
「それは必然だ」
死者は素直に答えた。
「吾が主と同じであれば……な」
爆弾発言。
当然、
「……っ!」
水月は絶句する。
「お前さんの背後が京八流か?」
「然りである」
死者は頷いた。
「ありえない」
そう言いたい水月であったが死者からは嘘を汲み取れない。
「お前は何者だ?」
「先もそれを問うたな」
死者は薙刀を手に取った。
「まずは自身から名乗るのが礼儀であろう?」
「礼儀に疎いもんで」
厚顔な水月らしい言だった。
が、それでは話が進まない。
「水月だ」
そう答える。
「水月。鏡花水月の水月か?」
「ああ」
しっかと頷く。
「水面に石を投げようと月は変わらず光を映す」
言葉を紡ぐ。
「曖昧。不敵。故に水月だ」
「歴史の重みを感じさせる名であるな」
「俺にとっては宿業だが」
苦笑い。




