もしも源義経がエクスカリバーを握ったら03
「しょうがない」
諦めて水月は外出の準備をした。
いつものジャケット姿だ。
目的は教会。
今日にも面倒事は起こるという。
であれば話を付けるなら問題が発生する前だろう。
そう思って真理にもプライムにも声をかけないで水月はホテルを出ようとした。
ちなみにザナドゥーは研究室で寝泊まりしている。
水月の弟子ではあるがマジッククリエイターとしての能力はある意味で水月より勝る。
エレベーターを使ってホールまで降りると、
「――――!」
「――――」
キンキン騒ぐ少女の声とたじろぐホテルマンの言い争いが聞こえてきた。
「ですからこのわたくしは役先生と知り合いだと……!」
ホテルマンと喧嘩しているらしい少女の口から自身の名が出て、水月は興味をそちらにやる。
金髪金眼にフリフリのゴシックロリータの服。
愛らしい大人になりきれていない美少女がいた。
ヒステリーなところも変わっていないらしい。
水月はその少女の頭にポンと手を乗せる。
「よ、久しぶりメイザース先生」
「ふぇ?」
途端におとなしくなって金髪金眼の美少女……アシュレイ=メイザースが振り返る。
「役先生……?」
「おう。久しいな。ご機嫌いかが?」
「よろしいですの」
「なら重畳」
微笑んで、
「シアンも久しぶりだな」
「お久しぶりでございます」
アシュレイの付き人であるシアンも一緒だった。
こちらはビジネススーツ。
銀髪銀眼の美女である。
「役先生!」
アシュレイは抱きついてきた。
ハグである。
愛友の証だ。
「お会いしとうございましたの!」
「で? 何を騒いでるんだ?」
「こちらのホテルマンがわたくしを役先生に渡りを付けないというので……」
「ああ、基本客を通すなって言い含めてあったからな」
「そうなんですの?」
「そうでもしないと客だらけになっちまうから」
魔術を教えてくれ。
そう言い寄ってくる人間は多岐にわたる。
水月の専門は修験道……古典魔術であるのに、だ。
新古典魔術師にも色々いると云うことだろう。
「そういえば何でお前は此処に?」
「メイザース家が何処にあるのか知りませんの?」
「ロンドン……だな……」
「然りですの」
ムフンと鼻息荒く小さな胸を張るアシュレイ。
「で、メイザース先生が何の用で?」
「先生禁止ですの」
「しかし魔術を使える人間……魔術師には先生を付けるのが礼儀だからな」
「ラーラは先輩と呼んでいるみたいですけど?」
「同じ研究室だから問題ないんだよ」
「ともあれいつも通りアシュレイで構いませんの」
「んじゃアシュレイ。何の用だ」
「役先生に自慢したくて」
「何を?」
「わたくし、ウィッチステッキ無しに迦楼羅焔を体得しましたの」
「ソロモン七十二柱は?」
「こ……これからですの……」
「さいか」
「一応魔術の感触を掴めたので覚えるのはすぐですの」
「でっか」
「これでわたくしも魔術師の仲間入りですの」
「ああ、よくやった」
アシュレイの金色の髪をクシャクシャと撫でる水月だった。
「ん……」
と瞳を溶かして恍惚に浸るアシュレイ。
「んじゃまたな」
その一言で場を去ろうとした水月に、
「何でですの!」
アシュレイがジャケットを引っ張った。
「用事があるんだよ」
「付き合いますの!」
「お前が魔術を覚えたことはわかったから帰れ」
「今のわたくしなら裏ロンドンにも発言力を持てますの」
「いらん」
まさに一刀両断。
「何しに何処に行くんですの?」
「説得。教会」
あまりに簡潔極まる返事であった。
「教会? 魔術師が?」
「一応牽制しておこうと思ってな」
「何にですの?」
「黙秘権を行使する」
「お・し・え・る・の!」
アシュレイは譲らなかった。
「はぁ」
嘆息。
「アンデッドに知り合いが出来てな。ちと威力使徒と話をする必要があるんだよ」
「神威装置と?」
「ああ」
「アンデッドは女の子ですの?」
「美少女」
「役先生は……もう!」
どうやら水月の女難の相はある程度アシュレイも認識しているらしかった。
自分がその一端とは認識していなかったが。




