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現代における魔法の定義  作者: 揚羽常時
もしも源義経がエクスカリバーを握ったら
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ヴァンパイアカプリッチオ15

「リザの依頼じゃなければ金剛夜叉でまとめて吹っ飛ばすんだが……何事も上手くはいかないと言うことか」


 嘆息。


 水月の目に吸血鬼は映っていない。


 見ているし視認してはいるのだが、根本的に動く障害物以上のモノでも無い。


 コウモリが。


 狼が。


 吸血鬼自身が。


 それぞれがそれぞれに水月に襲いかかる。


 しかし水月の金色夜叉はそれらを全てシャットアウトしていた。


 金色のオーラによる絶対防御。


 軍事力にも匹敵する攻撃魔術。


 そして自己観測者という無限の補給能力。


 もはや誰が勝てようか。


 無論魔術の深奥はとにかく奈落だ。


 水月が後れをとる魔術師とて両手で数えられない程度には居る。


 馬九李などが良い例だ。


 ガンハートも此処に加えて良い。


 しかして吸血鬼たちは水月の戦力を知らず、


「ただの魔術師」


 と侮って襲いかかり返り討ちに遭う。


 正確には駆除される。


 当然ながら先の妄念は既に取り払われているが、水月の戦力を知ったからと云って状況が好転するわけでもないのだ。


 水月はあまりに強すぎる。


「問題は……」


 水月は呟きながら金色夜叉を解いた。


「俺が斥力を知りすぎてるが故の弊害だよな」


 これ幸いと吸血鬼が襲いかかる。


「――千引之岩――」


 魔術障壁を張る水月。


 透明な壁は吸血鬼たちの進行を止めた。


 再度金色夜叉を展開した後、


「――迦楼羅焔――」


「――前鬼戦斧――」


「――後鬼霊水、秋霖――」


 再度様々な手法で吸血鬼たちを駆逐していく。


 水月の足は止まらない


「とまれ!」


「断る」


 とかく敵の事情に耳を貸さない辺りは水月らしい。


 水月に右手を向けられた吸血鬼と、その周囲の吸血鬼がサクサク死んでいくのだ。


 ほとんど死神の手招きに近い。


 レギオン史上これほどの蹂躙はなかったろう。


 元々が神威装置の威力使徒……リリィを除き、類感感染儀式魔術に念頭を置く新古典魔術師の魔窟だ。


 長い歴史の中にあって洗練され尽くした古典魔術師の業はその遙か先の延長線上にある。


 実戦性で問えば、古典魔術が二百歩も三百歩も先を行くのは必然である。


 水月とて真理には遠いものの、その一角には相違ない。


「ほとんど害虫退治と変わらんな。むしろ的がデカい分だけ駆除しやすい」


 魔術を放ちながら苦笑する。


 リリィもアスカロンをふるって大暴れしているし、別のオベリスクからレギオンの間引きに加わった魔術師たちも善戦はしているのだが、水月の活躍の前には色褪せる。


 元より水月にとってレギオンの間引きは二次的なものだ。


「襲いかかってくるから殺している」


 言ってしまえばそれだけ。


「血を吸われるから蚊を殺す」


 とほぼ同義である。


 逃げ出す吸血鬼さえも殺して、水月はレギオンの宮殿に一歩一歩と近づいていく。


 特別急ぐわけでもなく。


 かと言って止まるわけでもなく。


 あくまで平坦に。


 水月の向かう先を察した吸血鬼が襲いかかるが有象無象でしかなかった。


 ガルーダの魔の手によって灰へと帰される。


 金剛夜叉には劣るが迦楼羅焔とて規格外の炎熱系魔術ではあるのだ。


 なおガルーダは魔を払う神鳥。


 これほどの幻想殺しはそう見つからない。


 そしてあらゆる吸血鬼を殺しに殺して宮殿の扉の前に立つ。


「何してますの! あなたは!」


 リリィがアスカロンを振るってきた。


 金色夜叉に弾かれたが。


「ちょっと宮殿に用があって」


「レギオンの間引きは宮殿に手を出さないことを密約していますのよ! 相互理解の元、放し飼いにされている吸血鬼のみを滅するのが作法なんですわ!」


「へえ」


 返事は肯定的だが声音が全てを裏切っていた。


 リリィの耳には、


「だからどうした?」


 としか聞こえなかった。


 事実ではあるのだが。


「ふむ」


 と重厚な鉄の門の前に立つ。


「ちぃ!」


 門の前に立った水月を警戒して吸血鬼が襲ってくる。


 それらはリリィの竜殺しの聖剣……アスカロンによって駆逐されたが。


 水月はと云えば、


「――迦楼羅焔――」


 サクリとマジックトリガーを引いて、その圧倒的熱量で鉄の門を蒸発させた。


「待ちなさい!」


「無理」


「殺すわよ!」


「出来るもんなら」


 どこまでも水月は不敵だ。


 そもリリィとの戦力差は既に証明されている。


「ああ、もう!」


 明らかに憤慨していたが残念ながらリリィでは水月は止められない。


「せめて裏ロンドンの意向とは別物と主張なさいよね!」


「はなからそのつもりだ」


 言ってすたすたと門を抜ける。


 待っていたのは半円状に陣を組んだ吸血鬼たちのマーチ。


 基本的に宮殿内に保護されてる吸血鬼はグランドヴァンパイアに次ぐ格。


 即ちセカンドヴァンパイアとサードヴァンパイアだ。


 今まで水月が相手をしてきた吸血鬼たちとは訳が違う。


 極地的な不死身性と収斂された殺人能力を持つ人類にとっての脅威である。


 無論ソレは水月にとっても例外ではないが、水月自身もほとんど人間を止めているためあまり他者を責めることも出来ない。


 というか、


「する気がない」


 が正確か。

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