いざ、裏ロンドン13
「何事も上手くいかねえな」
水月はチャプンと湯船に浸かって嘆息した。
「古典魔術師である役先生と新古典魔術師であるプロミスリル教授の決闘」
それは爆発的に裏ロンドンを震撼させた。
一応スケジュールはもらったが、
「サボろっかな?」
やはりどこまでも水月だった。
特に名誉を求めて魔術を覚えたわけでもない。
後ろ指さされる程度で済むのなら不戦敗でも構いはしないのだ。
少なくとも水月にとっては。
「駄目ですよ役先生」
何故か同じ浴室に入浴しているザナドゥーが戒めてきた。
ちゃっかり水着姿で。
もはや、
「毎度のこと」
と思わなければ水月はやってられなかった。
「役先生のご活躍を私は楽しみにしているんですから」
「とは言われても……な」
苦虫を……な顔になる水月だった。
「面倒事だ」
声と表情でそう語る。
「水月様なら圧勝できますよ」
こちらも何故か水着姿のプライム。
「プロミスリル教授の実力について私は把握していますが二流……とまでは言わない物の準一流を超えることはありませんから」
「準一流ね……」
一流には及ばない。
そんな程度の実力者だとプライムは言う。
「ていうかぶっちゃけ余裕じゃないですか水月?」
やはり何故か水着姿の真理だった。
「他人事だと思いやがって……」
辟易するほかない。
「ていうかお前ら俺の何がいいの?」
「優しいところですかね」
「純情なところでしょう」
「役先生は師匠ですから」
「だからって一緒に風呂に入るのは如何な物か……」
まったくその通りではあるのだ。
「乙女だって好きな人の前ではビッチになるんです」
「ですです」
「ですね」
「真理とザナドゥーはそうでもプライムは男だろ」
「そうですよ。乙女である真理様とザナドゥー様が水月様と入浴していいはずがないんです。私は現在男ですから水月様とも問題になりませんが」
「チェリャ!」
水月のチョップ。
「何を為されるんですか……」
頭を押さえてプライム。
「お前もだ」
「そんな!」
ありえない。
プライムはそう言った。
「じゃあ聞くが男同士で入ると云うことは友情の範囲と見て取ってもいいのか?」
「男色に目覚めましょう」
「断じて断る」
「水月様は意地悪でいらっしゃいます……」
「俺がお前の存在を認めてないのは先に言ったはずだよな?」
「では女性になれば愛してくれますか?」
「俺にはさくらがいるから」
「私がさくらです!」
「プライムな。その辺取り違えのないように」
「あはは」
と笑ったのはザナドゥー。
「プライム先生、フラれましたね」
「なら水月……私は?」
「だからもうちょっと俺を見極めてからにしてくれや」
悲壮。
後の嘆息。
「私は水月が好き!」
「さいでっか~」
どんぶらこっこ。
無気力に流す水月だった。
「役先生は……その……何か特殊な性癖をお持ちで……?」
「はいそこ。誤解を招く言い方をしない」
「だって女性にも男性にも興味を示さないなんて……」
「俺が純情を捧げるのはさくらにだけだ」
「あう」
プライムが気圧された。
プライム自身の罪では無いが、魔法メジャーの罪の象徴ではある。
「水月様は本当にさくら様を愛していらっしゃるんですね」
「今すぐにでも取り戻したいくらいにはな」
「出来ないんですか」
「技術的には可能だが物理的には不可能だ」
「技術的に可能というのはやはり……」
「多分お前が思っているのとは違うだろうがな」
「梵我誤差のあるさくら様を生み出して魔法メジャーに管理されているさくら様の脳の形相を移植するのでは?」
「もうちょっと純情な手段を俺は望んでいる」
「はて?」
プライムには理解が及ばなかった。
さもあろう。
口にこそしない物の水月は、
「第五魔王になるしかない」
と結論づけているのだから。
そしてそのための障害があまりに大きいため今はのんべんだらりとしているだけだ。
「男色じゃ……ないよね……?」
「普通に女の子が好きだ」
「あは」
真理とザナドゥーが笑った。
「むう」
一人男の娘として創造されたプライムが唇を尖らせるのだった。




