いざ、裏ロンドン05
「ふわぁ」
とは真理の言。
ザナドゥーのローズワールドは多彩な彩色で具現された。
水月の木花開耶が慎ましやかかつ洗練された印象なら、ザナドゥーのソレは煌びやかで華やかな印象だ。
元より水月は戦略的手段として木花開耶を覚えたのだからマジッククリエイターのザナドゥーの遊び心とは微妙に違う。
その辺りの機微は当事者同士にしかわからないことではあるのだが。
花吹雪や花火や照明……その他諸々の盛り上げを見て、
「でもこれじゃあ戦力になりませんよね?」
根本的なことを真理は問うた。
「だな」
それについては水月も異論は無い。
無論プライムやザナドゥーにも。
「ですから意味があるんですよ」
とプライムが苦笑しながら云った。
「と云うと?」
当然の質問。
答えたのは水月。
「魔術を攻撃の手段と認めている輩は多いだろう?」
「実際私もその一人ですし」
水月の魔術を模したソレを習得している真理である。
「魔術」
がイコールで、
「殺傷行動」
に直結するのが自然と云えた。
であるため場を盛り上げるザナドゥーの魔術は不可思議と取れる。
「まぁ魔術は法律に縛られない殺傷手段であることは否定しないがな」
水月は意外と肯定的に云った。
「ただ攻撃魔術を覚えて悦に入るだけが魔術師ってわけでも無いんだな」
「マジッククリエイター……」
「然りです」
これはザナドゥー。
「――現世に示現せよ――」
聞いたことのある魔力の入力の呪文を唱えて、
「――ファイヤーワーク――」
花火を打ち上げるのだった。
「この通り」
と赤い髪の乙女は云う。
「私は場を盛り上げることに特化した魔術師です」
ススと水月に寄り添う。
水月はそんなザナドゥーの頭を撫でる。
「マジッククリエイター様々だな」
「えへへぇ」
ザナドゥーは幸せそうに笑った。
「けれどこんな多彩な魔術をどうやって?」
「熟練された魔術師なら難しいことじゃないのはお前だって知ってるだろ?」
「っ!」
言葉を失う真理。
それは一つの事実であった。
ラーラや真理は魔術は使えるが、それは画一的なモノだ。
というかイクスカレッジの魔術師の大半はトランス状態において画一的な精神性を保持することに終始するため入力と演算から一定の結果しか得られない。
水月は本気で魔術を使う際、
「オンマユラキランデイソワカ」
と真言を口にするが、そもそもとして本気や手加減や応用を一つの術式に組み込むことは高難易度の技術なのである。
コンスタン研究室の室長……オーロール=コンスタンの、
「TheMagician」
がそれを雄弁に物語る。
コンスタン教授の、
「TheMagician」
は筆記用具の是非を問わず、また紙や黒板等の媒体を無視し、なお自身の望んだ筆記を実現する魔術である。
チョークならチョークの、万年筆なら万年筆の、シャーペンならシャーペンの、それぞれに複雑多様化する筆記技術を纏めて一つの魔術に取り込む。
また紙や黒板やホワイトボードを問わず複雑多様化する媒体選択を一つの魔術に取り込む。
また、
「何を筆記するのか?」
を自身の意思でアレンジして幾らでも自在に文章を操れる。
そうであるためコンスタン教授は大魔術師の一席を受けているのである。
同じ事がザナドゥーにも言える。
魔術の応用において一家言在る存在だ。
薔薇の花びらの乱舞では花弁の色を自在に変更し、花火もその形態から色合いまで自由自在。
無論安易にブリアレーオの法則がコレを容認するはずもない。
だがザナドゥーはまず精神の前提が他の魔術師と違った。
「コイツは」
と水月はポンポンとザナドゥーの赤い頭を叩く。
「魔術を遊びと捉えているんだよ」
「遊び……ですか……」
「そ。だからコイツにとって魔術とは娯楽の範疇でレゾンデートルに寄りかからない概念だ。即ち魔術に価値を置いていないから多彩な魔術を幾らでも作り出せる」
「なるほど……」
一応の所、納得する真理だった。
「でも元々は役先生の木花開耶に感激したことを端に発していますがね」
ケラケラとザナドゥー。
「まぁ……俺としても魔術を攻撃手段にするのは懐疑的だ。そう言う意味ではお前は自慢の弟子だな」
「恐悦至極……ですね?」
「どうも。で、迎えに来たって事はそれなりの歓待を期待して良いのか?」
「五つ星ホテルを予約しています。役先生、只野先生、プライム先生、是非とも泊まっていってくださいな」
「そりゃどうも」
案の定不敵な答えを返す水月。
「ええ?」
真理は混乱を深めた。




