再会の来訪者13
次の日。
水月の金色夜叉は激震を以てイクスカレッジを揺さぶった。
さもあらん。
マジックトリガー無しで魔術を行使するなぞ考えられてもなかったのだから。
で、水月はコンスタン教授に呼ばれた。
相も変わらず淡々と。
コンスタン教授は口を開いた。
「役水月先生」
「何でっしゃろ?」
「金色夜叉……見事です」
「恐縮だな」
「無形魔法遺産にも具申されているとか……」
「プライムが騒いでるだけだ」
「一つ提案があるのですが……」
「言ってみんさい」
「役先生は研究室を持つべきです」
「役ラボラトリ?」
「然り」
「それが面倒だから教授の研究室にいるんだがな」
水月は肩をすくめた。
面倒事は水月の嫌う最たるモノだ。
「しかして悠長にはしていられませんよ?」
「なにゆえ?」
「あなたが金色夜叉を以て証明したせいで魔術の儀式と出力との間に因果関係は無いと結論づけられます……」
「だろうよ」
「では魔術とは脳で完結する現象に他なりません」
ちと訂正があるがな。
水月はそんなことを思った。
無論、口にはしないのだが。
とまれ、
「そんな大げさなことか?」
それが水月の本心。
元よりマジックトリガーと魔術の出力については、現代魔術師にとっては疑問視されるべき法則だ。
「それが今更証明されて……だから何よ?」
というのが水月の結論だ。
こと重きを置いていないのである。
「とまれ」
とコンスタン教授。
「魔法メジャーに申請はしておくべきでしょう」
「脳をやるつもりは無いぞ」
「その点に関しては杞憂かと」
プライムと似たようなことを言うコンスタン教授だった。
「自己観測者ならばどうしようもありますまい」
「アーク様々だな」
くっくと水月は笑った。
「で、あればこそ……ですね」
「仮に魔法メジャーに呼ばれたなら俺は蹂躙するぞ?」
「シルバーマンやゴールドーンを敵に回すおつもりで?」
「勝てる戦力だしな」
これは驕りでは無い。
単純な事実確認だ。
「仮に招かれたのなら渡りに船だな」
「役先生の結論はわかりました」
嘆息。
コンスタン教授も水月のノリにはついていけないらしい。
「では書類だけで詰めましょう」
「日和見主義め」
「致し方ないでしょう」
再度嘆息。
「魔法メジャーはイクスカレッジのパトロンなのですから」
「それはそれで気にくわないんだがな」
「ええ。そう言うと思っていました」
三度嘆息。
「ですからソレらの処理はこちらで行ないます」
「恐悦至極」
「役先生は本当に研究室を持たないのですか?」
「特に他人の魔術能力に興味ないし」
これを本音で言うのである。
水月ならでは……ではあるが。
「ところで昨日の女生徒は迎え入れないのか?」
「タロットの新古典魔術はこちらで間に合ってます故」
「ふむ……」
頭をガシガシ掻きながら納得する水月。
「なら何故ラーラを迎え入れた?」
「将来性を鑑みての事です」
「ま、才能はあるわな」
「役先生には敵いませんが……」
「それはしゃーないだろ」
サクリと残酷な言葉を吐く水月だった。
「それにラーラは別方面でも活躍してくれますし」
「そちらについては否定しないがな」
飄々と。
「で?」
とこれは水月。
「俺は無形魔法遺産になるのか?」
「先からそう言っています」
「何だかなぁ」
無駄なこと。
水月はそう思えてならなかった。
無形魔法遺産。
水月とさくらを引き離した一事。
そに憎悪を覚えるのは水月にとっての必然だ。
「なにかしら反論が?」
「正直めんどい」
どこまでも率直な水月。
とはいえこの濁流を止めるような力では無かったが。




