再会の来訪者09
案の定というか何というか……。
翌日。
その朝。
「水月様! 水月様! 御起きください! 朝ですよ!」
プライムが必死に水月の起床を促していた。
無論そんなことで水月のだらけが治るはずもなかったが。
「昼まで寝かせろ……」
平然と言って抱き枕にギュムゥ。
「ではお目覚めのキスを……」
「この世から滅却するぞ……」
こういう返しは想定してなかったらしい。
「むぅ……」
と唸るプライム。
「じゃあ私が先輩に目覚めのキスを!」
「あーくそ……起きれば良いんだろ起きれば」
もぞもぞとベッドから這い出る水月だった。
「今日は午前からコンスタン教授の講義とか在ったっけか?」
一応出ないと嫌みを言われるレベル。
無論水月が痛痒するはずもないのだが、とまれご機嫌取りは必要だ。
「忘れてるんですね……」
再度だが案の定である。
苦笑しながら真理が四人分の朝食をコタツ机に並べた。
今日の朝食はごま塩おにぎりときんぴらゴボウ、それから切り干し大根と豆腐の味噌汁である。
「あー」
とか、
「うー」
などと唸りながらコタツ机を囲む一助の水月だった。
四角形の机の側面に水月とラーラと真理とプライムが囲う。
「いただきます」
水月がそう言う。
真理とプライムもソレに習う。
一人ラーラだけがイタリア出身と云うこともあり長口上を口にしたが。
そしてテキパキと、あるいはダラダラと、朝食を開始する四人。
水月はまず胃を温めるために味噌汁を飲んだ。
今日の味噌汁はいりこダシに白味噌である。
落ち着いた味に薫り高い風味。
「懐かしいな」
ポツリと呟いた。
「あう……」
とプライムが真っ赤になった。
さくらの味だったのだ。
「この味噌汁はプライムが作ったのか?」
「……はい」
ポーッと熱に浮かされながらプライムは頷いた。
「どうでしょう?」
「懐かしい味だ」
「光栄です」
「…………」
「…………」
この三点リーダはラーラと真理の分だ。
水月自身に自覚どころか興味もない案件だったが、ラーラと真理にとってプライムは恋敵に相違ない。
「味噌汁を以て上手いと云わせる」
古典的な日本における嫁の優劣の評価だ。
そして味噌汁という一分野においてラーラと真理よりプライムが一歩先を行っていた。
人格と記憶がさくらなので当然と云えばその通りなのだが。
ともあれそんな三人の恋模様に全く頓着せずに水月はごま塩おにぎりを頬張る。
「で?」
「とは?」
「何で俺はこんな朝早くに起こされてんの?」
「どうせそんなこったろうと思って起こしたんですよ」
とこれはラーラ。
「水月」
「可愛いな、お前は」
「はうあっ!」
ズキューンとハートを射貫かれる真理だった。
「ズルいよ!」
「ズルいです!」
「何か面倒な真実を告げられるのが嫌でつい口をふさいだだけだ」
「そんな理由」
ショボンとする真理だった。
「とはいえ聞かんとならんのは概ね察せられるが……」
「なら時間稼ぎは止めてくださいよぅ」
「歯医者と同じで甘受せにゃならんがしたくないというか。で、今日は何の面倒事よ?」
「魔術決闘」
「あー……」
おにぎりを嚥下。
「やっぱり聞きたくなかった」
どこまでも水月は平常運転だった。
「すっかり忘れ去ったってーのに……」
「相手は知っています?」
「昨日も言ったが特に必要ないな」
「まぁそうでしょうけど……」
真理は不満……というか不安そうだった。
「なんとはなれば自己観測者だしな」
「水月様が傷つかれるのが嫌なんです!」
プライムが声を荒らげた。
「じゃあ無傷で勝つか」
サクリと言ってのける。
「実験したい魔術もあったしな」
「実験?」
「したい?」
「魔術?」
「おう」
鷹揚に頷いて水月は朝食に戻った。
ちなみに二度寝はさせて貰えなかった。




