再会の来訪者02
で、
「なんでこーなるのっ」
水月はプライムと一緒に風呂に入っていた。
元がさくらと二人暮らしを前提に選ばれた宿舎であるから窮屈さは感じない。
風呂掃除をしたのがプライムで、水月の背中を流したのもプライムだった。
「光栄です水月様」
プライムはうっとりとして水月に体を重ねた。
「俺にとってお前は憎悪の対象なんだがな?」
「水月様は嘘つきです」
「お前が……魔法メジャーが何をしたか知らんわけじゃなかろ?」
「それについては解決しているでしょう?」
「どういう風に?」
「キスしてくださったじゃないですか」
ポッと赤くなるプライムだった。
美少年故に愛らしい仕草だった。
水月にはどうでもいいが。
「さあ水月様」
「今度は何だ」
「抱いてください」
「嫌」
即決。
というか他に言葉がなかったのだが。
「私では駄目でしょうか?」
「だってお前、男だし」
「愛に性別は関係ありませんよ?」
「俺が抱くのはさくらだけだ」
「ですから私でしょう?」
「お前はデッドコピーだろ」
「むぅ」
不満そうなプライムであった。
「では水月様はラーラ様や真理様を抱いてはいらっしゃらないと?」
「ああ」
サックリと答える。
「何か不満が?」
「別に抱くことについて不満はないが、俺にはさくらがいるしな」
「光栄です」
「だからお前じゃない」
「しかして現実のさくら様は……」
「まったく……余計なことをしてくれたもんだよ本当に」
ケッとふてくされる水月だった。
「水月様は禁欲的ですね」
「それとは少し違うが」
「どの辺が?」
「一途なだけだ」
「純愛ですか」
「然りだ」
うんざりと答える水月。
「では性欲はどのように?」
発散しているのでしょう?
問うプライムに、
「わかってて聞いてるだろお前」
水月はジト目で見つめた。
「自慰行為をするくらいなら私を使ってください」
「エイズが怖いしなぁ」
「私の純情は水月様にのみ捧げます故その心配は杞憂です」
「ぬけぬけと言えたモノだな」
肩をすくめる。
「私では不足ですか?」
「大いに」
葛城さくら以外には不貞不貞しい水月であった。
そも、さくら以外に興味を抱けないことを以て業が深いのだが。
「うう!」
「何だ。不満か?」
「不満です!」
プライムは激情を叩きつけた。
「私だってさくら様の意思を受け継いでいます!」
「だな」
「身を焼くような恋慕を持っているのです!」
「だな」
「水月様が大好きです!」
「だな」
「愛してます!」
「だな」
とかく水月は素っ気ない。
当人に憎悪や憤怒の残滓もないが、
「で?」
というのが本心だ。
「セックスしましょう!」
「嫌」
まったく簡潔に水月は呟いた。
ボソッと。
当然憤慨するプライム。
「何ゆえです!」
「興味ないし」
「セックスが?」
「お前が」
どこまでも率直な水月の言。
水月には理想がある。
標榜がある。
目的がある。
そこにプライムは映っていない。
「正直なところ殺してもいいんだが」
物騒なことを本心から言う。
「別段命を取る必要性もないから放置してるだけって事は弁えておけ」
「私は水月様を愛しております!」
「俺は別に」
さっぱりとしていた。
まるでポン酢でしゃぶしゃぶを食べるような。
「水月様は私を嫌いだと……?」
「さっきからそう言ってないか?」
「それでも私はさくらです」
「サクラプライムな」
そこだけは譲れないらしい。
さくらの遺産を受け継いでいるのだからしょうがなくはあるのだが。
「そもそも男色に興味ないし」
「心は女性です!」
「脳だろ」
「ええ。ですから水月様に惚れております」
「何回繰り返すんだ」
「うんざりだ」
と水月は嘆息した。
そうには違いないのだ。
それから逆上せる前に水月は風呂場を出た。
プライムに体を拭いてもらって私室に戻る。
「…………」
ジト目の真理がいた。
「何か抗議でも?」
水月が飄々と尋ねると、
「水月……モーホー?」
「断じて違う」
そこだけは譲れなかった。
「でも男の人と風呂に入った……」
「状況が状況だろう」
「じゃあ状況さえ揃えば私とも入ってくれるんですか?」
「乙女を安く買いたたく趣味はねえよ」
本音だ。
だからこそ意味あることなのだから。




