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夏の白雪は神の涙10

 今日も今日とて文化祭の準備。


 別に僕は友達がいないから、


「皆で一緒に盛り上がろう」


 という群集心理に迎合することは無いけど今年に限って言えば例外だ。


 なんといっても白雪さんがいる。


 意味不明だけど僕を慕ってくれていることは本物だ。


 つまり僕はスクールカーストの最底辺から、ピラミッドの支配構造の外に脱却した形と相成る。


 けしてスクールカーストの上位にいるわけじゃない。


 僕個人だけで判別するなら最底辺。


 だけど白雪さんと一緒にいることでリア充となる。


 爆殺されないか不安だ。


 水月はというと執事服のまま白雪さんの注いだ紅茶を飲んでいた。


 それは僕も同じだけど。


 ちゃっかり僕の隣に座っているあたり良い性格をしているけどクラスとしては、


「あそこは別世界」


 という認識に落ち着いたらしい。


 僕と白雪さんと水月とでバミューダトライアングルを形成していると……そういうわけ。


 水月の接客の練習は既に終わっている。


 何事も小器用にこなすため習得も早く、メイド係の女子より洗練された対応を見せるのだった。


 ここまで完璧超人だと妬ましいを通り越していっそ清々しい。


「白雪~。茶~」


 この面の皮の厚さも清々しい。


「僕も」


 さり気に水月をフォロー。


 こうでもしないと白雪さんは水月に奉仕してくれない。


 多分二人とも僕の意図は悟っているんだろうけど。


 水月がクシャクシャと僕の髪を撫ぜる。


「良い奴だなお前」


「別に……」


 照れくさくって首肯できない。


「夏さん。お茶です。水月も」


「ありがと」


「おう」


 カップを受け取ってまたちまちまと飲む。


「ところでさ」


 とこれは僕。


 水月に対してだ。


「僕は検閲に引っかからないで魔法の存在を知れたよね?」


「おうとも」


「僕も魔法使いになれる?」


「広義的な意味では既に成ってるがな」


「どゆことよ?」


「白雪が怖いから秘密だ」


 たしかに白雪さんを見ればジト目の警戒心ありありで水月を睨んでいた。


 よほど詮索してほしくないらしい。


「火を出したり雷を操ったり氷を張ったりなんて」


「まぁやって出来んことは無いな」


 さっぱりと言ってくれた。


「コツとかある?」


「脳みそぶっ壊して現実と幻実を取り違えるところから始めるのが常道だ」


「脳を壊す?」


「魔術ってのは要するに自身のパワーイメージを魔力で再現する現象……というのが近代魔術の常識だ。このパワーイメージを確固たるものにしないと魔術は使えない。例外はあるが基本的に魔法使いは狂気の土台に座している異常者の総称を指す」


「…………」


 何を返せるわけでもない。


「役さん。夏さんを外道に誘わないでください……」


 静かな非難を秘めて白雪さんが言った。


「失敬」


 自省した様子もなく茶を飲む水月。


「僕だって魔術使いたいよ」


「白雪が怖いから俺は御免だ。どうしてもというなら白雪に習え」


「白雪さん?」


「ダメです」


 けんもほろろ。


「何で?」


「役さんの言葉を聞いていたでしょう。魔術を扱うには正気と狂気を取り違える精神異常の下地が必要となります。まして夏さんは健常者。これを顧みず魔術を習得しようということを止めずに何の使用人でしょう」


「でも広義的には僕も魔法使いなんでしょう?」


「それは……そうですが……」


 自覚は無いけどね。


「ちなみにどんな魔術を顕現してるの?」


「秘密です」


「水月?」


「秘密だ」


「やっぱりこの手の話題になると二人の息が揃うね」


「だからとて役さんを立てようというものではありませんが」


「俺は白雪に刺されたくないだけ」


「じゃあ僕が白雪さんを牽制するよ」


「夏さん!」


 白雪さんが激昂した。


 クラスメイトの視線を集める。


「あ……う……」


 と呻いた後、


「御冗談が過ぎます……」


 囁くように忠告された。


「ごめんごめん」


 そこまで過敏に反応されるとは。


 脳の機能を壊して精神異常者にならないと魔術は使えない。


 例外はあれど。


 となれば僕は例外だろう。


 なんたって自覚無しに魔術を駆使してるんだから。


 どんな魔術かは知り様もないけど。


 茶を飲む。


 クラスメイトの文化祭に向けたテンションは少しずつ……かつ確実に熱を高めていっていた。


 頑張れ。


 他に言い様がない。

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