夏の白雪は神の涙05
次の日。
特にディバロッチ討伐に赴かなかった水月ではあったけど結局いつ寝ても朝の目覚めは苦労人らしい。
僕が叩き起こして一緒に白雪さんお手製のコーヒーを飲む。
「ん~……」
呻きながらズズズとすする水月。
ダイニングテーブルの中央にはラジオが。
ご当地ニュースを聞きながら、コーヒーを飲んで朝食をとる。
おそらく昨日の斬撃魔術とその結果について聞きたかったのだろうけど、生憎とニュースはそれに触れなかった。
それが水月の口利きなのか魔法検閲官仮説のせいなのかは僕の判断力を軽く逸脱しているんだけど。
さて、
「いただきます」
三人揃ってパンと一拍。
朝食を開始する。
今日のメニューは白米と納豆と雌株となめこの味噌汁。
全体的に粘ついているのは気のせいだろうか?
好きだから不満なんてないんだけどさ。
つやつやの白米が美味しい。
納豆と味噌汁とに存分に合う。
雌株もパックだったけど僕の好みの味付けだった。
三人揃って平らげて、それから僕と水月は顔を洗って制服と喪服に着替える。
白雪さんは食器を片付けた後に制服に着替え横に並ぶ。
「夏さん」
と白雪さん。
「腕に抱き着いてもよろしいでしょうか?」
哀願口調。
この口調に僕は弱い。
というか一緒に風呂に入っている時点で腕を組むとかそんなステージを軽く飛び越えている気がするんですけどどうでしょう。
結論、
「いいよ」
とゆことに。
「恐縮です」
パッと白雪さんは華やいで僕の腕に抱き着いた。
「憎いな」
爽やかな表情で皮肉ってくるのは当然水月だ。
さっぱりとした物である。
「本当に水月は白雪に興味が無いの?」
念を押すように聞いてみる。
「ああ」
そっけない。
そんな返事。
「何で?」
「好き奴がいるから」
「そうなんだ。可愛いの?」
「白雪と比べて遜色ないぞ? というか大和撫子萌えとしては白雪よりも俺の好みに近いから結論として白雪よりかわいい」
はあ。
「白雪さんより可愛い女子なんているのかな?」
というのが嘘偽りない僕の本音だ。
これは失礼かもしれないけど、
「白雪さんの美貌は病的だ」
とさえ思える。
正直なところ並び立つ女の子が一人でもいるという可能性こそ疑ってかかるほど白雪さんの華麗さは神懸っているのだ。
「こういうのは不思議なもんでな」
と水月。
「日本の魔法業界に関わる人間は極端に分かれるんだ」
何が?
「容姿が」
「?」
首を傾げてしまう。
「だろうよ」
と水月は言う。
「極端に美麗か極端に醜悪か。結構綺麗に分かれるんだな」
「そういえば酒呑童子はイケメンって逸話もあるね」
「そ。岩長姫と木花開耶姫って話もあるしな」
「それで水月はそんなに格好いいんだ……」
「そゆこと」
ニヤリと笑う水月だった。
「…………」
これがまた嫌味なくて。
いやイケメンって何やっても許されるのかな。
「夏さんもイケメンですよ」
そんな白雪さんのフォロー。
「……ありがと」
僕としては釈然としない。
基本的に白雪さんの褒め言葉は桃色フィルターがかかっているためだ。
そんな自虐を考えていると、
「まぁ俺には及ばないにしても案外悪くもねえんじゃねえかな」
水月が乗っかってきた。
「あの……」
一応のところ僕……スクールカースト最底辺なんですけど。
「モテない男子諸氏の嫉妬ですよ」
そんな風に白雪さんが断じて、
「お前の容姿と学校での在り方を繋げるにはちと根拠が足りないな」
水月もやっぱり乗っかった。
「そんなものかな?」
「そんなものです」
「だな」
二人揃って頷いた。
「…………」
返す言葉は生憎持ち合わせていなかったけど。




