夏の白雪は神の涙03
結論。
警察に捕まって取り調べを受けました。
そりゃそうだ。
あの人気の無い場に居たのは僕とクラスメイトの虐めっこ五人だけで、僕以外の五人が頸動脈を切り裂かれて病院行きともなれば、引き算で、
「僕が原因」
をイコールで等価にするのは容易だ。
色々と取り調べを受けて、時に当たり前だけど疑惑を向けられて、かといって釈明するにも根拠足らずで。
カツ丼(自腹)を食べながら僕は警察に付き合った。
結局のところ僕は犯人にはならなかったけど。
入院を余儀なくされた愛すべきクラスメイトたちも僕の犯行ではないと言ったため疑念が晴れたという側面もある。
というか後日の事になるけどニュースにもならなかった。
事情説明をした後、カツ丼を食べ終わって釈放。
そもそも頸動脈を切り裂くための凶器も持っていなかった。
なおクラスメイト五名が首を切られたとき、僕は蹲って苦しんでいた。
背中に血がかかっていたことがソレを証明している。
証拠不十分。
本当に?
なんとなくもやもやしながら警察署を出る。
すると、
「夏さん……!」
「よ。お勤め御苦労」
白雪さんと水月が外で待っていた。
義理深いというか何と云うか。
「先に帰っていてよかったのに……」
呆れたように僕が言うと、
「夏さんのいるところがわたくしのいるところです故」
「と白雪が言うからどっちにしろ付き合わざるを得ん」
にゃるほど……。
「明日にはニュースになるよね」
「ああ、それはない」
水月はあっさりと言った。
「そうなの?」
「まぁ弱小新聞にはチラッと載るかもしれないが大手メディアは無視するだろうな」
「こう言うと陰謀論に聞こえるけど水月が情報統制したの?」
「ま、多少は口利いたが本質はそこじゃねーよ」
「?」
クネリと首を傾げる。
「言ったろ」
水月はにやりと笑う。
「俺は魔法使いだって」
「魔法で洗脳でもしたの?」
「俺は使えないがそういう魔術もありはするさ。暗示って呼ばれる類の魔術だな」
「使えないんだ」
「ああ」
飄々。
「じゃあ何さ?」
「魔法検閲官仮説」
「うむ?」
「魔法使いにとってのセーフティみたいなもんだ」
魔法検閲官仮説……。
セーフティ……。
「要するに『魔法は人類の普遍的事実にはなり得ない』って仮説だ」
「もうちょっと詳しく」
「要するに魔法が文明的表沙汰にならない。魔法を人類から検閲する法則が存在する。そんな仮説」
「なるほど」
そんな法則があるなら魔法使いが実在しながら世に出ないことも頷ける。
「じゃあ此度は……」
「ああ、闇に呑まれて終わるな」
飄々。
「でも待って」
最悪の事情が浮かび上がるんですけど。
「今回の件は魔法検閲官仮説によって無かったことにされるんだよね?」
「そうだな」
「ということは魔法の行使が前提になるよね」
「そうだな」
「…………」
「そうだな」
何も言ってないんですけど。
「水月は魔法使いって言ってたよね?」
「そうだな」
至極あっさりと……。
「もしかして今回の案件って……」
「そうだな」
特に気負ってもいなければ責任を感じてもいないらしい。
「要するに魔法でクラスメイトの頸動脈を切り裂いた……と」
「ああ」
「物騒だね」
「そもそも攻撃魔術を持っていないとヴァンパイアと戦えねぇし」
ごもっとも。
「でも頸動脈切り裂く必要までは無かったんじゃない?」
「いや、俺が害さなかったらアイツら死んでいたからな?」
「どうやって?」
「白雪が殺すだろ」
「それこそどうやって?」
「銃殺」
至極あっさりと言ってのけるなぁ……。
「白雪さん?」
「何でしょう?」
「銃を持ち歩いているの?」
「はい。夏さんの護衛用に」
「…………」
こういうのを、
「愛が重い」
というのだろうか?
「銃火器なんかどうやって持ち運んでいるのさ?」
「普段はハンマースペースに貯蓄しています」
「ハンマースペース?」
「とりあえず帰ろうぜ。話は後でも出来るだろ?」
そういうことになった。




