夏の白雪は神の涙02
女子と二人。
肩を並べて歩く。
向こうは表情に影が差していた。
緊張……とはまた違う。
何かに急き立てられるかのような感情図だ。
あくまで卑屈な僕の処世術表情占いによるものだから正答率は高くないけど。
中々の美少女ではあるけど、まさか僕に惚れたわけでもあるまい。
基本的に僕の容姿は整っていない。
白雪さん?
蓼食う虫もって奴だろう。
何事にも例外は付きまとう。
僕にとっての白雪さんがその顕著な例。
あるいは水月もそこに含まれるかな?
あの二人が付き合えばそれはそれは丸く収まるだろう。
僕なんかに構う必要もなくなる。
そうならない原因がわからないけど、
「わたくしには夏さんしかいません」
「白雪は美少女だが興味ねぇな」
そんな二人でもあった。
疑念。
基本的に生物は進化の促進を歯車に動く。
サラブレッドにとってはそれが足の速さだろうし、人間にとってはそれが容姿というわけだ。
それはアイドルという不朽の市場が明確に証明している。
である以上、この学校で比類ない二人が恋仲になって僕がお役御免になればそれで済むのにそうはならない。
何だかな。
白雪さんの忠誠心。
水月の気安さ。
僕には重すぎて抱えられない。
甘えていはするんだけど……それでも裏の事情を疑ってしまうのはあまりに卑屈すぎるだろうか?
特に水月。
白雪さんは騙すにしてはあまりに直球だ。
そもそも僕一人をからかうために支度金を十億円も用意する必要が無い。
ん?
まさか水月はその十億円を狙っているのだろうか?
仮に盗まれても別に構いはしないけど。
つらつらとそんなことを思いながら名も知らぬ女子生徒と並んで歩く。
着いた先は体育館の裏手。
建設の関係上、日の当たらない場所だ。
不安を覚えた。
そして正解だった。
愛すべきクラスメイト。
その男子の中でもガラの悪い範囲人が待っていたのである。
「それでは自分はこれで」
僕を呼び出した女生徒は逃げるように去っていった。
「あー……」
だよねぇ。
ふっ。
期待なんてしてないさ。
なんて言うと強がりだけど。
男子生徒ら五名はポキポキと拳の骨を鳴らしながら僕を包囲した。
僕を中心に正五角形の頂点だ。
一対五かぁ……。
元よりもやしっ子だから一対一でも絶望的なんですけどね、はい。
さりとて助けが来るはずもなく。
大声で叫べば誰か来てくれるかもしれないけど、関与しようとまでは思わないだろう。
僕が逆の立場なら無視を決め込む。
ならば助けが来ないことを呪う資格もない。
「で?」
と尋ねる。
「僕を虐めてどうしたいの?」
「虐めじゃねえよ。可愛がりだ」
言葉って素敵ね。
「瀬川さんを解放しろ」
解放と仰られる。
ある種僕が支配してるというのも側面的な見方ではあるだろうけど……。
けどさぁ。
それってさぁ。
「瀬川さんに言った方が話早くないですか?」
「てめぇ如きが瀬川さんを語るな」
申し訳ない。
「それで僕にどうしろと?」
「瀬川さんと縁を切れ」
「難しいなぁ」
地獄までも追ってきそうだ。
いや本当に。
そう言うと、
「っ!」
男子の一人が蹴りを繰り出した。
正確に鳩尾を蹴りぬかれる。
それだけで暴力に慣れていることを悟れた。
悲しい事実確認だけど虐められっ子としてはこんなことは基礎だ。
「が……はぁ……!」
お腹を押さえて膝をつく。
元より鍛えていない体格にはきつい事情だ。
蹲ってしまうのは規定事項。
僕は占いも未来視も持っていないけど予知できることがある。
この後、男子たちは蹲った僕を蹴ったり踏みつけたりするのだろう。
そう思った。
確定的事実……と思ったらそうはならなかった。
何故か?
男子五名がそれどころじゃなくなったからだ。
頸動脈を切り裂かれて。
蹲った僕に動脈から勢いよく噴き出す血が降りかかった。
えーと……、
「え?」
ポカンとするしかなかった。
何じゃらほい?




