転校生は魔法使い13
一日で水月の執事服が完成をみたのはクラスメイトの驚愕を呼んだ。
そして水月は燕尾服に着替える。
後は接客の練習だ。
「お帰りなさいませお嬢様」
練習として営業スマイルを浮かべる水月に、
「……はうあ!」
客の立場である女子が心臓を貫かれていた。
まぁ水月は有り得ないほどの美少年だ。
そんな水月に、
「お嬢様」
と呼ばれれば女子なら卒倒ものだろう。
実際今の女子はクラクラしてるし。
「紅茶とコーヒーはどちらにしましょう? ケーキもありますが……」
水月も付き合いが良いようで執事を完璧にこなしていた。
当人は、
「ものぐさだ」
と自認しているらしいけど、
「まぁこの程度なら付き合っても損にはならん」
とのこと。
どんな基準なんだかな。
僕は白雪さんの淹れた茶を飲みながらポーッと水月を見ていた。
「砂糖とミルクはどうしましょう?」
執事喫茶らしく。
そんなことを尋ねる。
「あ……」
と女子は呻いた後、
「ありありで」
と答えた。
「ではそのように」
さり気に水月は砂糖とミルクを紅茶に入れると、女子と視線を交わして混ぜる。
「お嬢様……」
「ひゃ、ひゃい……!」
「どうぞ」
砂糖とミルクありありの紅茶を差し出す水月。
「ありがと……ございます……」
紅潮して紅茶を飲む女子。
顔は真っ赤。
よほど緊張したらしい。
「…………ま」
気持ちはわからないじゃないけどさ。
「あ~、きっつ……」
ネクタイを緩めて水月は僕の隣に座る。
「大変だね」
僕の皮肉は、
「まぁな」
通じなかった。
「ま、これも業だよ」
「お前に言われてもな」
そんな返し。
「?」
僕は首を傾げる。
「なんでもね」
水月は誤魔化した
「前から思ってたんだけどさ」
「何だ?」
「水月と白雪さんって何処か通じてるよね」
「さもあらん」
特に言い訳することもないらしい。
「僕だけついていけてない」
「気にすることでもないけどな」
飄々と。
「そうなの?」
「そうなの」
首肯する水月。
「僕はヴァンパイアに狙われてるんだよね?」
「ああ」
正確には、
「僕を介した白雪さんを」
ではあるらしいけど。
「それで水月は白雪さんと分かり合えているの?」
「ん~……」
しばし沈思黙考。
そして結論。
「ちと違う」
水月は言った。
「少なくとも白雪はお前が好きだぞ」
「僕は水月に勝てないし……」
容姿。
勉学。
運動。
ありとあらゆる面において僕は水月に劣る。
白雪さんが心変わりしないかは僕にとっては重大な問題だ。
そう言うと、
「はは……!」
水月は笑った。
それも皮肉たっぷりに。
「何さ?」
「見当違いも甚だしい」
そんな水月の言葉。
「白雪はお前にぞっこんだぞ。仮にお前がふってもしつこく付きまとうだろうよ」
「そんなものかな?」
「そんなものだ」
ちょっと面白くない。
「なんで水月にはわかるの?」
「それがアークティアだからな」
……アークティア。
白雪さんもそんなことを言ってたね。
一体全体何なんだろう?
水月に聞いても、
「黙秘権を行使する」
と意地悪く笑われただけだったのだけど。
「むぅ……」




