転校生は魔法使い10
ところで、
水月の燕尾服が完成したところで僕が聞いた。
「僕は吸血鬼に命を狙われているんだよね?」
「だな」
シャツにバスパン姿の水月が首肯する。
ちなみに水月の寝る場所は両親の部屋だ。
僕と白雪さんからは離れた部屋である。
「真偽は置いといて」
箱を持つようなジェスチャーをした後、それを横に置く。
「仮にだけど吸血鬼の話が本当だとして」
「として?」
「どうやって滅ぼすの?」
根本的なことを僕は聞いた。
「魔術」
さもあっさりと水月の答え。
「魔術?」
首を傾げる僕に、
「ああ」
特に気後れなく水月。
「俺は魔法使いだからな」
「…………」
……魔法使い。
ええと……。
「そんなのあり?」
「特に嘘を言う意味もないがな」
そりゃそうだけど。
「でも魔術って……」
僕が疑念に思うのもしょうがない。
が、
「お前がそれを言うか?」
皮肉気に水月は切り返してきた。
「僕?」
「ああ。お前だ」
「別に魔術なんて使ってないんだけど……」
「役さん?」
底冷えする声で白雪さんが牽制した。
「そんなつもりはねぇよ」
水月は肩をすくめる。
やっぱり僕は置いてけぼり。
いいんだけどさ。
「水月は魔法使いなの?」
「そう言ってる」
「証拠は?」
「簡単だぞ?」
実演すればいいだけだからね。
「――現世に示現せよ――」
ポツリと水月は呟いた。
「――木花開耶――」
呪文が唱え終わられる。
次の瞬間、
「……っ!」
「……な!」
僕と白雪さんが絶句した。
何故か?
答えは簡単。
花吹雪が脈絡なく具現したからだ。
桜の花だ。
それが我が家に所狭しと乱舞する。
「とまぁ、こういうわけ」
そして水月はパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、
「……っ!」
「――っ!」
僕と白雪さんの驚愕をほっぽって桜吹雪は朝日の前の霧のように消え失せた。
「とまぁこんなことが出来るんだな」
水月は飄々としてそう言った。
「本当に魔法使いなの?」
「さっきから言ってるだろうが」
何を今更。
と水月。
「攻撃のための魔術も……?」
「ああ」
あっさり。
「この家くらいなら一撃で粉砕できるな」
それはそれは……。
何と言ったものだろう?
「吸血鬼と対峙するの?」
「というか退治だな」
「うーむ」
間近で魔術を見せられれば納得する他ないけど、
「勝てる?」
そう聞いてしまう。
「あんまり自信は無い」
水月は率直だった。
「相手が逆羽だからな」
「さかばね?」
「逆羽のディバロッチ。それが此度の吸血鬼だ」
「逆羽のディバロッチ……」
僕は繰り返す。
「とりあえずソイツをどうにかせにゃあな」
やはり飄々と水月。
「僕に出来ることある?」
「家にこもってろ」
だろうけどさ。
「場合によってはわたくしが手伝ってもいいですよ?」
とこれは白雪さん。
「お前が目当てだぞ?」
「些事です。なにせわたくしにはバックアップが存在しますので」
バックアップ?
「それもそうだな。じゃあ俺の裁量で無理だと判じれば頼もうか」
ほけっと水月はそう言った。




