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転校生は魔法使い01

 月曜日。


 ブルーマンデー。


 カクテルの事じゃないよ。


 念のため。


 白雪さんは、


「無理して登校することはありませんよ」


 と言ってくれる。


「勉強ならわたくしが教えて差し上げられますから」


 と言ってくれる。


「労働する必要もありません」


 と言ってくれる。


「身の回りの世話もお任せください」


 と言ってくれる。


「夏さんは好きに過ごしてもらって構わないのです」


 と言ってくれる。


 まぁ俗物には幸福なことだろう。


 けれど僕としてはどれだけ辛くても庶民的な生活サイクルが日常で。


 それを否定できるほどの勇気は持てなかった。


 弾かれた存在であるのに、これ以上の堕落を恐れてもいる。


 当然白雪さんには全部バレバレで。


 だから恥ずかしいんだけど、


「夏さんが恥じることはありません」


 白雪さんはそう言ってくれる。


 希望の光に思えた。


 恵まれた白雪さん。


 持たざる僕。


 そこにある高い壁をヒョイと乗り越えて白雪さんは僕を抱いてくれる。


「怖がらなくていいんですよ」


 と。


「わたくしだけは絶対に味方ですから」


 と。


 不覚にもそう言われたとき僕は泣いてしまった。


 僕は底辺だ。


 恵まれていない。


 生まれついた業は一生付きまとう。


 学校にも親戚にも憂き目となった。


 だから白雪さんだけが僕の全てだった。


 白雪さんは言う。


「夏さんだけがわたくしの全てです」


 僕は言う。


「白雪さんだけが僕の味方だ」


「ならばわたくしたちはソレだけで完結しますね」


 と云った白雪さんはくすぐったそうに微笑した。


 いじらしいというか何というか。


 月曜日の朝食。


 メニューは白米と焼き鮭とサラダとみそ汁。


 いつも通り美味しかった。


「御馳走様でした」


 合掌。


 そして制服に着替える。


 僕はワイシャツとパンツ。


 白雪さんはセーラー服。


 登校。


 相も変わらず、


「えへへ」


 白雪さんは僕に懐いてくれる。


「腕に抱き着いてもいいですか?」


 そんなことを聞いてくるのだ。


 言葉は甘えと共に憂慮があった。


 僕に断られるのを恐れる。


 僕に拒否されるのを怖れる。


 この口調に僕は弱い。


 毎度ながらね。


 だから、


「いいよ」


 と言ってしまう。


 白雪さんは、


「光栄です」


 と腕に自身を絡める。


 きょぬ~が僕の腕に当たって幸せだったけど衆人環視の胡乱な瞳は避けようがなかった。


 これはスルーするしかないんだけどね。


「なんで蝉川なんかと……」


「妬ましい……」


「嫉ましい……」


「ちょっと立場を自覚させた方がいんじゃね?」


 そんな物騒な言葉も出てくる。


 つつくのも恐いから黙ってるけど。


 そんなこんなで昇降口。


 相も変わらず白雪さんの靴箱には付箋がペタペタ貼ってあった。


 どれもこれも、


「白雪さんとお近づきになりたい」


「白雪さんとラインしたい」


 とのことでだ。


 無論あっさり却下されたけど。


 南無。


「僕に構って得することは無いよ?」


 白雪さんの可能性はあまりに広く、その在り方は極端に狭い。


 ぶっちゃければ白雪さんは僕にしか興味を割いていない。


「なにゆえ?」


 と問うたのも何度目か。


「夏さんが大切だからです」


 そんな答えも何度目か。


「そんなに僕って魅力的?」


「ええ。これ以上ないほど」


 照れるね。


 いや本当にさ。


 独占禁止法に触れなきゃいいんだけど。

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