転校生はメイドさん11
放課後。
結局僕と白雪さんはクラスから浮いており、僕は白雪さんから奉仕を受けてポーッと過ごした。
「喉は渇いてはおりませんか?」
「紅茶やコーヒー以外でも自販機にある物ならば買ってまいりますが?」
「濡れタオルです。どうぞ汗をお拭きになってください」
等々。
白雪さんは懸命に僕を意識してくれて僕はそれを甘受するのみ。
嫌がらせの類をしようにも、
「下手を打てば白雪さんを敵に回す」
という意識(っていうか危機感)がかろうじて良い方向に作用していた。
時折話しかけるクラスメイトもいたけど事務的なもの以外には、
「謹んでごめんなさい」
としか返さない。
とにかく僕以外に興味が無いようだった。
そんなわけで逃げるように下校。
帰りの途中にショッピングモールに寄るのだった。
「今日の夕餉にリクエストはありますか?」
食品売り場を肩を並べて歩きながら白雪さんが問うてくる。
モールは人で溢れている。
学校以上だ。
当然ながら神懸った形貌を持つ白雪さんは男女問わず振り返る。
冴えない僕はさながら従者だろう。
実際の主従関係は反対なんだけどねん。
「そうだなぁ」
リクエストと言われてもパッと思いつかない。
「胃に優しい物」
そう言った。
まだまだ暑い日が続くため食欲減退は否めない。
「素麺などどうでしょう?」
「ああ、いいね」
「ではワサビと生姜のどちらがお好みですか?」
「どっちも冷蔵庫にあるでしょ?」
市販品のチューブの奴が。
「せっかくですから本物を摩り下ろしましょう。やはり香りが違いますから」
「さすが」
「わたくしは夏さんのメイドさんですから」
「ありがとね」
ポンと白雪さんの頭に手を乗っけると、
「あは」
紅潮して白雪さんは笑ってくれた。
僕も赤面してしまう。
何度も言うが白雪さんの美貌は有り得ない。
である以上、僕が心奪われるのもしょうがないっちゃないのだ。
僕は否定的な人間だ。
世界は僕を否定する。
少なくとも世界が僕に優しくないことは実感として覚っている。
勉強も運動もそこそこ。
容姿はそこそこにも届かないだろう。
スクールカーストは最底辺で、親戚一同にとってはババ抜きのジョーカー扱い。
天涯孤独の身となり、しかして誰にも同情されない鬱屈感。
天地真理を悟るにこれ以上は無いだろう。
対して白雪さんは肯定的な人間だ。
世界は白雪さんを肯定する。
というより祝福する。
人外の美貌。
家事全般が得意で器用。
勉強も大学レベルの教養まで修了している。
運動も体育の時間に見るにそつなくこなすようだ。
「胸が邪魔なため思ったように動きません」
と白雪さんは恥ずかしそうに言ったけど、持っている者の傲慢だ。
ボンキュッボン。
その気になれば賛辞の波にのまれることも可能だろうに何故か否定的な僕に尽くす。
「なにゆえ?」
そう思わざるを得ない。
結果として白雪さんの世界は閉じている。
僕と白雪さんだけで完結することを当人が望んでいるとしか思えない。
十億円の支度金と僕を支えるメイド道。
摩訶不思議とはこのことだろう。
閑話休題。
赤くなった頬に手を当てて冷ますと、僕は言った。
「どっちかと云うならワサビが好きかな?」
「はいな。わかりました。しかし素麺とするなら……」
あれやこれやと悩んだ後、
「野菜が足りませんね」
だね。
「豚汁などどうでしょう? 何かしら嫌いな野菜はございますか?」
「特に無いかな?」
基本的に根菜に苦手は無い……はずだ。
多分。
「ではその様に」
そう言って白雪さんは買い物籠にポンポンと食材を入れていく。
十億円も持っていながら何て質素な生活だろうかとは思う。
そう伝えると、
「豪勢な生活をしたいのですか?」
と問われた。
僕はかぶりをふる。
「普通が一番」
少なくとも浪費する生活なぞ僕の胃を痛めるだけだ。
だからこそ白雪さんの献身には言葉に尽くせないほど感謝しているのだけど。
「恐縮です」
白雪さんははにかんだ。
それはいっそう愛らしかった。
ちなみに素麺と豚汁は美味しかったです。
直接摩り下ろされたワサビも薫り高かったしね。




