転校生はメイドさん03
とはいえ白雪さんは既に大学までの教養を得た身。
特に不足なく学業を理解していた。
というより自身の知識の再確認以上のものではないだろう。
では何故僕と机を接着させているかと云えば単純に、
「傍にいたいからです」
とのこと。
照れるね。
そうやって午前の授業は終わった。
昼休み。
僕はだいたい学食を使うんだけど白雪さんはどうするんだろう?
そんなことを思っていると、
「夏さん?」
あいあい。
「昼食にしましょう」
デンと重箱を取り出した。
「…………」
僕は沈黙する。
「…………」
クラスメイトたちも沈黙する。
「一応夏さんの箸も用意していますけど、わたくしとしては『あーん』など体験してみたいですね」
「時間が惜しいから却下」
正確には惜しいのは時間ではなく命なんだけど。
何と言っても転入早々スクールカースト最底辺とイチャイチャしているのだ。
その上で白雪さんお手製の昼食。
見せつけていると云って過言じゃない。
僕は箸を握ると合掌。
「いただきます」
白雪さんも、
「いただきます」
そうやって昼食が始まった。
「もしかして学業について伏せていたのはこのため?」
「サプライズを狙ってみました」
「大学の教養まで修了しているって言ってなかった?」
「叙述トリックと云う奴です」
「…………」
いやまぁいいんだけどさ。
「夏さんはお知り合いの方とは?」
「いないよ」
「ぼっちですか?」
「ぼっちです」
「ではわたくしが夏さんを独占出来るわけですね」
「はあ……まぁ……」
「では以後宜しくお願いします」
「はあ」
激しい脱力感。
「何? 二人知り合い?」
第三者の声。
僕と白雪さんが声のした方に視線をやる。
おにぎりをあぐり。
声の主はあか抜けていた。
努力しているのだろう。
神秘的な美少女の白雪さんとは違う意味での美少女だ。
読モとかに出たら一定の人気を得そうな女子だった。
「ええ。親しくさせていただいています」
白雪さんはサラリと躱した。
「ちょーちょーちょー」
「何でしょう?」
「付き合ってんの?」
「そんな畏れ多いことは出来ませんよ」
こっちのセリフだ。
「弁当まで準備して蝉川さんのご機嫌取り? あっしらと食べない?」
「謹んで遠慮させていただきます」
波風立てないように……それは拒絶。
「蝉川が好きなの?」
「ええ。愛してますよ」
あちゃ。
「――――!」
教室で食事をとっていた誰もが噴飯した。
さもあらん。
僕は今すぐ家に帰りたい気分だった。
パーソナルスペースが欲しい。
言っちゃあ何だけど僕のメンタルは弱いぞ。
その上で白雪さんが、
「蝉川夏を愛してる」
なんて言うものだからクラスメイトたちは騒然とした。
ちょっとした精神的拷問だ。
なお無自覚ということは白雪さんに限って無いだろう。
全て計算尽くでこの異界を構築したのだろう。
僕と白雪さんだけの、
「わかってますよフィールド」
命名者……僕。
エビをあぐり。
もむもむ。
こうなると友達がいなくて正解だ。
厚かましく白雪さんに話しかけるにあたって僕を仲介する必然性が無いという一点に置いて。
白雪さんの意識メモリの大半を占有しているのは胸を張って自慢することではなく恐縮委縮して申し訳ない感情だった。
言葉にはしないけど。
「夏さん。あーん」
「あーん」
ほとんど挑発のようなものだよね?




