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メイドさんは突然に13

「夏さんも学校に行く必要はありませんよ? 生活費はわたくしが工面しますし家事はわたくしがこなしますし勉学は不肖ながらわたくしが教えて差し上げますし夜伽もわたくしがお相手いたします」


 悪魔か君は。


 堕落にもほどがあるだろう。


「学校には行くよ」


「そうですか」


 少し蒼色の瞳に寂しさが透けて見えた。


「それなら……ふぅむ……」


 僕を慕ってくれている白雪さんの事だ。


 また良からぬこと(褒め言葉)を企んでいるのだろう。


 そして大型の……冠市最大のショッピングモールに着く。


「食品売り場は何処でしょう?」


「その前に」


「その前に?」


「白雪さんの服を見繕うよ」


「エプロンドレスさえあれば他に要らないのですが……」


「僕からのお願い。ダメ?」


「ズルいです夏さんは。夏さんのお願いを断れないわたくしの心情を知っていて……」


「それについては謝るけど本心であることも事実だから」


 そんなわけで僕と白雪さんはモールの一角に集中している服屋の一つに入った。


 僕は服に詳しくないので、店員さんを呼んで白雪さんを押し付け、


「思いっきりガーリーな服装を見繕ってください」


 と頼った。


「了解いたしました。それにしてもこれは……!」


 店員さんは戦慄していた。


 さもあろう。


 何せ白雪さんはユニセックスな服装でさえ魅力を隠し切れない女の子だ。


 可愛い服の着せ甲斐があるだろう。


 そんなわけで予算の範囲内で白雪さんの服を買った。


 夏物と秋物を二パターンずつ。


 精算して夏物の服装に着替えさせた。


 スラリとしたワンピース。


 ちょっとした柄物だけど華やかな白雪さんによく似合っている。


 神懸った美貌がダメ押しでモールの客の視線を独り占め。


 僕は従者の気分だった。


 少なくとも並び立てないくらいは自覚している。


「あのぅ」


 と白雪さん。


「似合ってますか」


「もちろん。すごく可愛いよ?」


「恐縮です」


 はにかまれた。


 可愛いなぁ。


 いや本当にさ。


「じゃあ食品売り場に行こっか」


「その前に夏さん」


「何でっしゃろ?」


「手荷物を預かります」


「いいの」


 僕は諭す。


「こういうのは男の仕事だから」


「しかしそれではあまりにも……」


 憂いを見せる白雪さん。


 この口調に僕は弱い。


 本心から心苦しく思っているのだろう。


 何せ僕を悪趣味ながら、


「ご主人様」


 と崇め奉っているのだから。


「いいから。家事をするのが女性の仕事なら力仕事は男の領分」


「あう……」


 少しの焦燥と妥協の末に、何とか僕は説き伏せた。


 罪悪感が無いと言えば嘘になるけどこればっかりは僕の矜持だ。


「今までさんざん負んぶに抱っこで何言ってんだ?」


 と言われたらそれまでだけどさ。


 そして食品売り場へ。


 サラダ用の野菜を買い込んだ後、生鮮食品売り場へ。


 魚と云っても色々ある。


 僕は、


「煮魚を食べたい」


 と言ったけど、それだってあまりにざっくばらんとしていた。


 要するに煮込んだ魚が煮魚だからだ。


 お題!


 サバを味噌で煮込んだもの!


 サバの味噌煮ー!


 ということも出来るわけだ。


「夏さん、何か魚にリクエストはあるでしょうか?」


 まぁ当然の質問。


「特に無いかな?」


「ではカレイの煮つけはどうでしょう?」


「ん。好物」


 嘘じゃない。


「ではそういうことで」


 調達する白雪さん。


「後は……卵とダシと……」


 うんうん唸りながら買い物籠に放り込んでいく。


 買い物籠を持っているのは白雪さんだ。


 僕が持ちたかったけど、


「食品の仕入れは女性の仕事ですよ」


 とニッコリ破顔して却下されてしまった。


 妥協と安寧。


「ま、いっか」


 とそういうこと。


 レジに並ぶとまたしても大勢の視線。


 これっぱかりはどうにもならない。


 ショッピングモールの夕方ともなればレジは込む。


 必然、白雪さんは衆人環視の興味の対象となる。


 何この居た堪れなさ?

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