メイドさんは突然に12
「夏さん」
しばし時間が経った頃。
白雪さんが僕に声をかけてきた。
「夕餉にリクエストはありますか?」
「煮魚」
「ですか」
「出来る?」
「素材さえ揃えば。そういうわけでしばし場を離れて買い物をしてこようかと思いますが許してくださるでしょうか?」
「構わないけど……」
僕は白雪さんを上から下まで見て言った。
「まさかその格好で?」
「無論」
何がよ?
「夏さんの使用人としての正装です。夏さんに恥をかかせるわけにはまいりません」
「却下」
「何故ですか!?」
むしろ何故驚く?
「メイド服でいられる方がダメージ大きいの」
「そうなんですか?」
クネリ、と首を傾げる白雪さん。
愛らしいけど騙されないぞ。
「他の服は持っていないの?」
「下着ならば幾らでも持ってきていますが……」
キャリーバックに入っている荷物のことだろう。
「外行用は?」
「エプロンドレスで十分かと思いまして」
むしろそれで不足と思わない思考回路が悍ましい。
「一応春夏秋冬に対応した衣替え用のエプロンドレスを用意しておりますが」
ですから安心してください、と追述する白雪さんだった。
アタマのズツウがイタい。
「とりあえず」
僕は提議する。
「今日のところは僕の服を着ていって」
そう言ってティーシャツとジーパンを貸す。
ユニセックスではあるけど白雪さんの美貌を以てすればスイカに塩だろう。
「夏さんがそう仰るならその通りにいたしますが……」
と言って着替え。
ちなみに着替えシーンは省きます。
わっはっは。
そんなわけでシャツとジーパン姿になったけど、元より白雪さんの体は成熟しきっている。
パイオツもお尻もカイデーだ。
故にシャツもジーパンもぱっつんぱっつんだった。
たしか同い年とか言ってたけど何を食ったらそこまで育つのだろう?
僕は男だから嫉妬の対象にはならないんだけど。
代わりに欲情の対象になってしまうのもまたいかんともしがたい事実ではある。
ちなみに、
「付き合っていい?」
僕はそんな提案をしてみた。
「構いませんが……面白いものではないと思いますよ……?」
買い物だしね。
「白雪さんはこっちに来てどれくらい?」
「一日ちょっとですね」
だろうね。
「ショッピングモールまで案内するから」
「そのようなことに夏さんを煩わせるわけには……!」
「僕がしたいの」
「あう……」
頬を朱に染める白雪さんだった。
うん。
いい感じ。
「それにデートにもなるし」
「デート……ですか……」
白雪さんは人差し指と人差し指でモジモジを演出してみせた。
「ダメ?」
「いえ。畏れ多い事です。肯定も否定も」
「じゃあどっちをとっても合理性は損なわれないね」
「……っ!」
しばし言葉を失った後、
「はい」
とブルーローズのように笑う白雪さんだった。
僕も外行に着替えていざ出発。
余談になるけど白雪さんは始めアタッシュケースから百万円の札束をごっそり取り出した。
僕が慌てて止めに入らなければ無論のこと札束を持ってモールに買い物に行ったことだろう。
目的はモールでの買い物だ。
食品売り場と白雪さんの外行用の服の買い物で終わる。
煮魚の材料を調達するのに幾らもいらない。
女性用の服は高いって聞くけど十万もあれば足りるだろう。
「備えあれば憂いなしですよ?」
まったくこの人は……。
というわけで百万円の札束から十万だけ抜き取って白雪さんの財布に入れて外へゴー。
もちろんキッチンの火気は確認済みだ。
うちはオール電化だから火事の心配はそこまでないんだけど仮に家が燃えたら十億円の紙束まで灰と化す。
用心を敷くに越したことはなかった。
まぁ放火されたらそれまでなんだけどねん。
「ところで」
とこれは日傘をさしている白雪さん。
日傘が日光を遮る対象は白雪さんではなく僕だったけど、ここでごねても白雪さんの心労になるだろうから甘えている。
「冠市は盆地なんですね」
その通り。
僕の住む某県冠市は盆地だ。
夏は暑く冬は寒い。
「どうにかならんのか」
とは思うものの囲んでいるお山を爆砕するわけにもいかず冠市の住人は人類の知恵の結晶で過ごしている。
ビバ文明!
「モール辺りは都会化してるけど基本的に隔離された空間だからもうちょっと足を伸ばすと水田とか見れるよ」
僕の家は都会方面にあるんだけど。
僕の通う学校も。
それとは少し話が逸れるのだけど、
「白雪さんは学校はどうするの?」
「一応大学までの教養は修了していますが……」
「ブッ!」
噴き出した僕は悪くないだろう。
メイドさんで家事万能で美少女できょぬ~でその上優等生と来たか!
どこまで天は彼女に与えたんだ。




