メイドさんは突然に11
さてさて、
「…………」
そんなことを思いながら紅茶を飲む。
あまりにも薫り高い一品だった。
「ほ……」
と吐息をつく。
「どうでしょう?」
憂いを含んだ表情で問うてくる。
この口調に僕は弱い。
「美味しいよ」
「……っ!」
パァッと華やぐ白雪さん。
「本当に……」
くっくと笑う。
分かりやすいなぁ。
まだ会って一日ちょっとしか経っていないけど白雪さんが何を大事にしているかは僕にも理解できた。
悪い人じゃないんだ……。
そう確信する。
なにゆえ対象が僕なのかは未だ見えてこないけど、白雪さんが僕を真摯に想ってくれていることだけは理解せざるを得ない。
別に尽くしたからとて給料を払えるわけでもなく。
利益を与えられるわけでもなく。
まして無条件に奉仕されるほど大層な存在でもなく。
でも白雪さんが僕に付き従ってくれることだけは理論ではなく直感で理解できた。
僕は座っているソファの空いてる空間をポンポンと叩く。
「一緒にお茶飲も?」
「いいのですか?」
「もっと気安くてもいいくらい」
「光栄です」
僕としては栄光だ。
こんな美少女に奉仕してもらって。
そう言うと、
「ふややわ……!」
と白雪さんは目に見えてたじろいだ。
「それは……そのう……」
モジモジ。
両手の人差し指を絡ませながら真っ赤になった白雪さんが言う。
「わたくしも……」
告白の吐露。
「夏さんが喜んでくださればそれ以上は在りませんし……」
「なんで僕?」
「ええと……」
しばし、
「あーだこーだ」
と考えて、
「アークティアって知ってます?」
意味不明な専門用語を出してきた。
「知らないけど」
「そうですね」
そうでした。
とりあえずそう言っておく。
「わたくしのレゾンデートルが夏さんのために在る」
これを真顔で言うのである。
「それでは足りませんか?」
「僕じゃなくてもよくない?」
「よくありません」
即答。
コンマ単位の計算だ。
「さいでっか」
他に何を言えと?
そんなことさえ思う。
こういう場合、
「蓼食う虫も好き好き」
と表現するんだっけ?
失礼な言い草だから言わないけど。
ところで、
「この紅茶美味しいね」
「恐縮です」
「うちのティーバッグで淹れたの?」
「いえ。こちらで準備させてもらいましたが……」
それでか。
薫り高いのは。
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
「そんなことは一厘もないけどね」
「はう」
ズキューン。
意図不明な口調で射貫かれる白雪さん。
特に何か言った覚えはないんだけど。
「僕に褒められて嬉しいの?」
「当然です」
当然なんだ……。
それもどうよ?
無論言葉にはしないんだけど。
「夏さんの肯定が世界の優しさ。夏さんの否定が世界の惨めさ。世界はそういう風にして回っているのです」
えらくマクロな話に飛んだね。
ツッコむのは野暮かな?
紅茶を一口。
「ほ」
と吐息をついて、
「白雪さんは優しいね」
心を込めて言ってみる。
「ふややっ……!」
白雪さんは真っ赤になってたじろいだ。
うん。
可愛い可愛い。
「あう」
蒼い双眸に慕情を乗せて。
頬を対照的に赤く染めて。
どこまで恥じ入る白雪さん。
いいね。
実にいい。
そうやって僕と白雪さんは時間を過ごす。
紅茶を飲んで。
時折白雪さんがキッチンへと走り。
新たな紅茶を淹れてふるまってくれる。
そんな時間がただただ愛おしかった。
メイドさんって良いものなんだなぁ。
そんな風にさえ思ってしまう。
これはカウントダウンものかな?
地雷ゲーかもしれない。
まぁ白雪さんなんて言う美少女で蒼髪できょぬ~の女の子を前にして、なお献身的に奉仕されて、
「惚れるな」
と言う方が無茶だろうけど。




