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176/545

メイドさんは突然に10

 寝られるわけもなかったけど。


 ダブルベッドの同衾者が、


「うぅん」


 と唸って寝ぼけながら僕を探し、その腕に抱き着くと、


「ふにゃり」


 と安心したように眠る。


 胸に押し当てられる幸せな感触。


 これでどうやって寝ろと云うのだ。


 そんなわけで朝日が昇る辺りでうとうととしだして、次に意識が覚醒すると午後の三時をまわっていた。


「…………」


 時計を見て、窓から注ぐ日光を見て、僕はそれを理解した。


「盛大にやらかしたなぁ」


 寝過ごすにもほどがある。


 付け加えれば今日はバリバリ平日です。


 つまりサボタージュしたことになる。


 ああ。


 単位が。


 寝室から顔を出すと、


「あ、おはようございます夏さん」


 白雪さんが出迎えてくれた。


 夢だけど夢じゃなかった。


 きっちりメイド服を着ていらっしゃる。


「何かお飲みになりますか? それともお食事になされますか?」


「……コーヒー」


「しばしお待ちください」


 パタパタとキッチンに消えていく白雪さん。


 僕はリビングのソファに座ってテレビをつけた。


 だらだらと午後番組を見る。


「お待たせしました。コーヒーでございます」


 リビングのテーブルにカチャンと受け皿が答える。


 薫り高いコーヒーだった。


「ありがと」


「いえいえ。夏さんに喜んでいただければソレがわたくしの報酬です」


 はいはい。


 実際にコーヒーは美味しかった。


「学校から連絡来なかった?」


「こちらで受け答えをしておきました。夏さんを起こすのも忍びなかったもので。早計でしたか?」


「何て?」


「今日の学業を休むかどうかの確認でした。一応夏さんはお休みなさるように伝えておきましたが」


 誰のせいだ誰の。


「教師は特に責めるような口調ではありませんでしたね。どちらかといえば慮っているような……」


 そらまぁ両親が死んで一週間も経たなければ同情の余地はあろう。


 僕自身は全く痛痒していないんだけど他者にとっては憐みの対象だろう。


 知ったこっちゃないんだけど。


「白雪さん?」


「はいな」


「明日からは登校時間に起こしてくれる?」


「夏さんがそう仰るなら」


 コックリと白雪さんは頷いてくれた。


 困ることもあるけど優秀なメイドさんだった。


「夏さん」


 あいあい。


「お腹は空いてらっしゃいませんか?」


 そりゃ朝と昼を抜けばね。


「でも今食べると夕食に響くしなぁ」


「では軽食だけでも……」


「ん。任せる」


「任されました」


 そしてまたパタパタ。


 キッチンへと消える。


 ジューとフライパンにて焼ける音が聞こえてくる。


 出てきたのはパンケーキだった。


 メープルシロップ付き。


「まぁこの程度なら……」


 ナイフとフォーク……ではなく箸で切り分けて口内に放り込む。


 咀嚼。


 後の嚥下


 ハラハラしている白雪さんに、


「美味しいよ」


 と安心させる。


「光栄です。えへへ。あはぁ……」


 幸せそうに微笑む白雪さん。


 そんなこんなでもっきゅもっきゅとパンケーキを平らげた。


「食後の茶は何にしましょう?」


 ふむ。


「紅茶でお願い」


 たしか安っちいティーバッグがあったはず。


「ではその様に」


 そう言ってパタパタ。


 紅茶を持ってパタパタ。


 僕にふるまってくれる。

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